清潔な身体は洗うことから

 今から90年前、1918~1919年のインフルエンザ(通称:スペイン風邪)では世界で2500万人以上の死者が出ました。地球の規模で世界中が巻き込まれるこのような大規模な疾病の伝染をパンデミック(汎世界的大流行感染症)といいますが、インフルエンザの場合、死亡者の数はけた違いに大きいことが分かります。このようなパンデミックは数十年ごとに繰り返すといわれ、鳥インフルエンザやSARSにはWHOをはじめ各国が大きな関心をもち、地球規模での予防策が講じられております。

 インフルエンザの予防は簡単ではありません。強力な伝染力をもち、しかも空気感染ですので、 清潔な環境はもちろん策の一つですが、それだけでは感染を防ぐことは出来ません。ワクチンの予防接種、体力を保つ事とか、感染機会の増える密集地区をできるだけ避けることなどが推奨されております。

 この冬、もう一つ恐いのが食中毒ウイルス、ノロウイルスです。しかし、これは経口感染ですので、手洗い、消毒、食品の洗浄などによって、かなり防ぐことはできます。カキなどの二枚貝は要注意で、洗浄の不完全な生鮮食品などから食品として消化器官に侵入し、下痢、吐き気、腹痛、発熱を伴います。予防はとにかく消毒,手を洗うことです。

 今回は清潔、衛生環境の改善について、歴史・現状を見てみたいと思います。

1.清潔と衛生的

 入浴の目的の一つは身体を清潔に保つことです。もう少し厳密にいえば、皮膚を清浄にするともいいます。

 衛生的であるということは、清潔であることには間違いありませんが、清潔=衛生的かというと少しニュアンスが違うようです。広辞苑第5版の説明はつぎのとおりです。

 衛生的=健康の保全/増進をはかり、疾病の予防・治療に努める状態

清潔=汚れがなくきれいなこと、衛生的なこと、また、人格や品行がきよくいさぎよいこと。

 清潔というと人が中心であり、衛生的というと人を取り巻く環境に主体があるようです。

2.清潔の歴史は新しい

 「清潔」という言葉は平安時代に出てきますが、日常生活の中に衛生的につながる「清潔」という言葉が出てくるのは比較的新しいようです。わが国では古代より「清い」環境というのは宗教の立場で重んじられてきました。しかし、衛生的という環境はやはり疾病の原因、たとえばパスツールやコッホによる細菌・感染症が発見されてからのことです。

 衛生的な環境ということでは、悪臭をいかに防ぐか、これが発端ではないかと思われます。それは衛生というよりも、快適な暮らしを求めてという立場からきております。

たとえば、欧州で中世にペストや黒死病が蔓延したとき、悪臭がその原因であるというので、いかに悪臭を避けるか、これが予防法の一つになりました。何も、欧州だけでなく、東洋医学では「邪気」「瘴気」が病の原因の一つになり、とくに「瘴気」は、沼地や下水などに発生する腐敗した湿地から立ち昇るガスで、伝染病の源でした。

 明治なっても、新聞広告にはジフテリアの感染防止には悪臭を避けることであるといって、防臭剤が宣伝されていました。悪臭が不潔な環境に結びつく事は確かであり、これらの話も間接的には今日にも通用するでしょう。延寿湯温泉のような入浴剤は清潔感が大事ですので、特に爽快な香りに配慮しています。

3.衛生環境の基本は下水道の整備から

 アメリカでは19世紀後半から20世紀にかけて、衛生的な環境を生み出すため市民のキャンペーンがはじまりました。衛生的な環境作りには都市の改造が必要であり、垂れ流しのし尿をはじめとして下水など悪臭発生源をなくすことと、道路に放置されていた動物の死体、生ゴミの処理から手がつけられました。水洗便所の一般家庭への普及は地区によってバラバラですが、都会では1920年以降でした。一方、手洗い・洗濯の方は、これも上水道の普及という大掛かりな投資を伴いますので、一挙にとは行きませんでした。

 上下水道の普及が衛生環境整備の基礎になっているようです。世界の下水道は古くは古代インドやメソポタミアまで遡りますが、それはさておき、現在の日本では、下水道普及率は68%です。これは人口密度、山村など地域によって大きく変わり、東京都の98%から、徳島県の11%までさまざまです。世界の普及率は97%のイギリスを筆頭に、オランダ、ドイツ、スウエーデンと90%以上が並んでおります。日本の68%はアメリカと並んで先進国の中では最低に近い状態です。

 石けんの普及も家庭における衛生、清潔な暮らしに欠かすことができません。わが国では家庭に普及し始めるのは、1920年代で、金持ちも貧乏でも皆が石けんを買える時代になったといいます。これはアメリカでも同じです。1927年、アメリカの石けん製造会社は小学生に石けんと水で手を洗うという運動を、同時に歯磨きの励行もしております。

4.清潔と入浴

 身体の清潔には入浴・シャワーが欠かせませんが、湯水をふんだんに使うことが必要です。日本では江戸時代、世界でもユニークな銭湯の普及がある程度、衛生思想を広めました。汗や埃に汚れた体を風呂に入って流して、すっきりという風景は描かれていましたが、

 江戸時代の風呂が衛生的であったかというと多多疑問はあります。たとえば、江戸時代の銭湯の浴槽付近は非常に暗かったようです。衛生状態の見地からは失格です。

 衛生思想の普及によってこれが一般の市民に理解されるには、かなり時間がかかりました。一般に入浴の頻度の高い、いわゆる風呂好きな人を、清潔な人ということがありますが、これも生活環境とのかかわりがあり、一概にも言いにくい場合あります。わが国の場合、都会に家庭の風呂が普及するのは戦後の昭和和半ばでしょう。住宅事情が、マズ解決しないと家庭風呂はのぞめません。延寿湯温泉は発売以来50年以上の歴史があり、入浴剤の仲間では古株ですが、しかし、発売当初は銭湯向けで、家庭用に発売し始めたのは20年ぐらい前です。

5.清潔すぎるがアレルギーの原因か

 日本人の3人に1人は喘息や花粉症、アトピーなどのアレルギーに悩んでいるそうです。アレルギーとはもともとは体内に入った有害な異物を排出するという、いわゆる免疫にかかわる作用が過敏になった状態です。ところが、衛生状態というか清潔が行過ぎると、異物を検知する体内のセンサーが敏感になり、例えば花粉のような本来は無害な物質にも反応してしまうのだそうです。

 アレルギーやアトピーの原因の一つに、暮らしに清潔が行き届きすぎているからであるという説があります。つい先日の朝日新聞(2006.1.30)に「免疫には適度に不衛生な方がいい」という記事がありました。実際にアレルギー患者というのは途上国よりも,先進国に多いそうです。明治・大正の時代よりも、今日ますます患者の増加していることからもご理解いただけるでしょう。

 そうはいっても、皮膚アレルルギー疾患の治療にはなんといっても清潔であること重要ですので、入浴によってほどほどの清潔さを保つことは必要でしょう。また、インフルエンザの予防には十分体を温め、適度の湿気が必要ということから、入浴を勧める医師もおられるようです。

 やはり、入浴は大事です。