汗の話

 風呂に入ると汗をかく。体内の有害物質や余分な塩分が汗と一緒に排泄される。毎日風呂に入り気持の良い汗をかきましょう。

 

1.汗は体温を下げるのが役目です

 暑い夏、炎天下、汗をかいてなんとかしのぎますが、汗のおかげで体温が保たれ、恐い熱中症を防いでいます。汗の本来の役割は体温を下げて体温を維持することにあります。炎天下を10分歩くと、汗は100ml程度出ます。体温が37.5℃であれば、もし汗をかかなかった場合、計算では38.5℃(体重70kg)になってしまいます。皮膚面に出た汗が蒸発する際に熱を奪うので温度は下がります。

2.相撲取り 仕切りでの汗

 大相撲名古屋場所が始まりました。ただでさえ暑いのに、力士の仕切りでの汗は流れるかのごとくです。仕切りを繰り返しているうちに汗は引き、勝負が終わって気を緩めた瞬間、また汗はどっとでます。この汗は必ずしも体温調節のためではありません。精神の集中との関係で発汗するもので、精神性発汗機構によるものです。先の体温調節で出る汗は温熱性発汗機構によりますが、両者は独立しているわけではなく、相互に関連しております。

3.あぶら汗を流して痛み耐える

 ひたいからにじみ出る汗をあぶらあせ(脂汗)といっております。あまり暑くないのに、興奮するとひたいやわきの下に汗が出てきます。精神性の発汗というのは、特にひたいに出るとは限らず、メカニズムははっきりいたしません。ひたいにはニキビが出来やすいように脂腺が多いので、汗に皮脂の混ざることが多いからかといわれております。このほかに、味覚性発汗といって、カレーやトウガラシなどひりひり辛いもの食べると温受容器(温度の上昇に感じてその情報を体温調節中枢に送る組織)が刺激されて発汗します。この時、涙や鼻水も出やすくなります。

 

4.汗をかいたらアルコールは抜けるか

 二日酔いの人が、「酒っけを抜く」といって、ジョギングしたり、サウナで汗を流す人がいます。酔っ払いが酒臭いというのはあくまでも、はく息、呼気のせいであって、皮膚から発散する体臭ではありません。飲んだアルコールは素早く吸収されて、熱を産生し、皮膚温をあげますが、一方では汗腺の活動を高め、発汗量は増やし熱を下げます。アルコールと汗とは関係はありますが、汗にはアルコールやアセトアルデヒドを排出する機構はありませんので、汗をかいても酒は抜けません。

5.身体から出る液体 汗と尿の成分の違い

 ほとんどの哺乳類は人のような水分の多い汗はかきません。人と哺乳類とは汗を作る機構が異なるからです。これは人と哺乳類の体毛有無の差につながってきます。

 水分の多い汗といえば、尿とのつながりが気になります。人の汗も尿も成分は近いのですが、決定的に違うのは尿は老廃物の排泄物ですが、汗は体温調節のため、わざわざ体液を犠牲にして使った分泌物であるということです。

<汗と尿の成分と濃度>  mM/l

       汗   尿
ナトリウム 30~120   128
塩素           10~100     134
カリウム       5~35      60
カルシウム    0.5~10      5
重炭酸        0~ >30     14
アンモニア    < 2~8       30
尿素           12~27      330
乳酸            8~40       —

    尿にはアンモニアや尿素が多く、乳酸はありません。汗には微量の金属が含まれ、カドミウムなど一部の重金属は尿よりも多く排出します。多量の汗をかくと、鉄分が多い時には1日0.3mgも失われるので、鉄分を補給する必要が出てきます。

6.あせも防止と良い汗のかき方

 冒頭にも書きましたように、汗をかいてすっきり爽快な気分にひたることが大事なのですが、汗のイメージといえば、梅雨どきのむしむし、じめじめ、べたべたなど、不快な言葉が少なくありません。汗の悪いイメージは汗が蒸発しきれないで皮膚や衣服を濡らすことに原因があるようです。というのは、汗をかいたあとの後始末が問題になるからです。肌に汗の溜まったままは衛生上問題があり、不潔にもなります。

 汗は一般に酸性ですが、汗の量の多いときはアルカリ性になり、皮膚に出た汗が蒸発せずに皮膚についたままですと、ますますアルカリ性が強くなります。これは汗の中の重炭酸イオンに関係があります。

 皮膚の汚れは細菌繁殖を招き、あせもの原因となります。あせもは汗が皮膚の中に溜まることによって起こり、溜まる場所が深いほど症状はひどくなります。不幸にして、あせもが長引くようでしたら、入浴剤延寿湯温泉のご使用をお奨めします。

 そこで、汗の後始末ですが、たくさん汗をかいたら、早目にシャワーを浴びるか、熱すぎない風呂に入り、汗を流すことです。皮膚は清潔になります。

 注意すべきことは、汗をかくと、体内の水分が減少しているので、入る前後に十分の水分を補給することです。また、激しい運動した時も、すぐに入浴するのではなく、30分~1時間休んでから、ぬるめの湯につかることです。運動中は筋肉の血管が拡張して血流が増えているので、そのまま風呂に入ると皮膚の血流も増えて脳への血液供給が減って、貧血を起こすことがあります。

<参考文献>

  1. 小川徳雄:汗の常識・非常識、講談社、東京(1998)
  2. 真島英信:生理学、文光堂、東京(1986)
  3. 養老孟司:人間科学、筑摩書房、東京(2002)