汗の季節

 汗の季節です。かんかん照りの真夏の暑さでは、ほどほどに汗が出てくれないといけません。汗と一言でいっても、いろいろあり、皆さんも次のような汗をご経験されていることでしょう。

  • スポーツで快い汗をかく。
  • 風呂に入って、さっと汗を流す。
  • 熱戦に興奮して、手に汗を握る。
  • 勝利は全員の汗の結晶である。
  • 野良仕事に汗を流す。
  • 衝突寸前で、冷や汗をかく。

1.汗とは何か

 鳥や哺乳類の動物は恒温動物ですので、体温は37℃プラスマイナス1℃で、ほぼ一定しております。体温がこのように一定になっているのは、体内の酵素の反応や、代謝活動などの化学反応をコントロールするのに欠かせないからです。

 体温を一定に保つという事は大変なことなのです。冷蔵庫や湯沸し器が温度を一定に保つために、常にエネルギーを使い、センサーがこまめに動いて、それこそ終日、エンジンは動きっぱなしです。

 体温を一定に保つためには、熱の産生と放散が共に働いてこそ、機能は正常に保たれますが、今回のテーマは汗ですので、熱の産生は省き、もっぱら熱の放散に絞ります。

 体内からの熱の放散は大部分が放射、伝導、蒸発で行われます。放射というのは、単純に熱い物体を机の上に置いておけば、自然に冷えてゆく、この現象をいいます。熱の放散の半分以上がこの放射によります。

 汗にかかわる蒸発ですが、これは放散全体の1/4程度です。  水が1g蒸発すると 580cal の熱が奪われます。体内の水は皮膚から出て蒸発するのが 1日 600~700ml、肺から呼吸に伴い蒸発する分は150~450mlです。

2.汗の組成

 汗は皮膚表面の汗腺から出ます。汗腺は日本人の場合、200~500万ありますが、実際に働いているのは200万前後です。汗腺は身体中に均等に分散しているのではなく、手のひら、足の裏がもっとも密で、ついで多いのが額(ひたい)です。

 汗の組成は表のとおりで、NaCl、尿素、乳酸を含んでいます。多量に汗をかくと水分の蒸発したあとにはNaClの結晶が出て、NaClの喪失が目立ちます。生理的食塩水と、汗のNaCl濃度とは近い数字になっております。

汗の組成(%)
NaCl    0.648~0.987
尿素   0.086~0.173
アンモニア      0.010~0.018
尿酸     0.0006~0.0015
クレアチニン    0.0005~0.002
アミノ酸 0.013~0.020
硫化物  0.006~0.025

3.汗とあせも

 汗の出る場合は、冒頭の例でも分かるように、温度にかかわる場合と、温度に関係なく感情にかかわる場合とがあります。生理学では温熱性発汗と精神性発汗とに分けて論じられております。もう一つ、酸味や辛味を口にしたときに味覚の刺激で顔面に汗の出る場合があり、味覚性発汗の追加される場合があります。温熱性発汗と精神性発汗との違いは、

 前者が全身起こるのに対し、後者の精神性発汗は汗の出る場所が手のひら、足の裏、わきの下などに集中することと、温度には関係が無いことです。

  体温が上がると、交感神経の指令で水分を分泌し、全身に分布する汗腺から、汗が出て、皮膚表面の熱を奪って蒸発します。

 暑い日、この皮膚は汗でしめっぽくなっていますので、皮膚表面の細菌は増えやすくなっております。細菌が増えると、その毒素は汗腺を傷つけ、詰まってしまい、破れて皮膚の中に漏れ出します。汗の組成は先述のように排泄物も含まれるので、皮膚内部は刺激を受けて炎症を起こします。これがあせもです。

 痒いので掻く、これがまた皮膚を刺激し、悪循環が起こります。

 あせもの予防は汗をかかないことに尽きます。皮膚を清潔に保つことも必要ですが、エアコンの効いた場所で汗をかかないように過ごす事が効果的のようです。

 エアコンの普及のおかげで、最近はあせもの患者さんはめっきり減ったと皮膚科の先生は述べておられます。

 延寿湯温泉の効能にあせもがあります。かゆみを除き、皮膚の炎症を抑え、細菌感染を防止するからですが、あまりひどくならないうちにご使用をお奨めします。

4.漢方における発汗作用

 同じ汗でも、この漢方での発汗作用というのは、これまでの話しとはやや趣が違いますが、生薬入浴剤 延寿湯温泉にちなんで、少し触れておきます。

 漢方治療では発汗法というのは、重要な治療手段の一つであり、発汗の処方・生薬の投薬はしばしば行われます。古来、傷寒論はじめ漢方の古典では発汗による治療を重視しておりますが、一つには現代のような優れた抗生物質の無かった時代には感染症に対する効果的な治療法がないため、この発汗による邪気の追い出しが重んじられたのであろうという説もあります。発汗法というのは「皮膚汗腺の発汗を促し、末梢血管の拡張や抗炎抗菌抗ウイルス、解熱などにより外感病の原因となる六淫の邪気を駆除する治療法である」と、漢方の大家、曽野維喜先生は説明しておられます。

 この目的で使う生薬を漢方では表証治療薬といっており、たとえば次のような生薬があげられます。

 マオウ(麻黄)、ケイシ(桂枝)、カッコン(葛根)、シソヨウ(紫蘇葉)、ハッカ(薄荷)、ショウキョウ(生姜)、キクカ(菊花)、シンイ(辛夷)

 なお、一般的に芳香性の精油を含んでいる生薬は局所の刺激興奮作用があり、その結果として発汗作用、鎮痛、抗炎症などがあるといわれております。

5.風呂に入ったら水分の補給を

 このごろの暑いこと、日射病、熱中症などがとかく話題になります。多量の汗により水分が逃げ出しているため、適切な水分補給が欠かせません。

 これと同じこと、熱い風呂に入ると、同様に大量の発汗があり、体内の水分が失われます。湯の中、水の中で、入浴中の汗には気づかないかも知れません。それだけに水分不足が恐いのです。高齢者、幼児の入浴前後には、十分の水分補給が必要です。  風呂上がりの冷えたビールが格別美味しいのは、この身体の水分要求がかかわっているのでしょう。ただし、逆はいけません。風呂入る前のアルコールは厳禁です。念のため。

<参考文献>

  • 田上八朗:皮膚の医学、中央公論新社(1999)
  • 日本浴用剤工業会:浴用剤に関する文献・報告集(2000)
  • 真島英信:生理学、文光堂(2002)
  • 曽野維喜:臨床漢方処方学、南山堂(1996)