皮膚は臓器である

 清潔な暮らしには皮膚の清浄が欠かせません。清潔な皮膚というとどうしても表面のみにとらわれがちです。特に、入浴とか石鹸の洗浄を話題にしていると、皮膚の表面に目が向けられてしまいます。「皮膚は身体を包む包装紙である」というのでは皮膚が泣きます。

 そこで、今回は大きく転換して、皮膚の最近の学説から、「皮膚は臓器である」という立場で皮膚の大事な機能を見直すことにいたしました。

1.皮膚はもっとも大きな臓器である

 傳田光洋著「皮膚を考える」による皮膚の臓器説にはいささか驚かされましたが、この説を詳しく読んでみるとなるほどとうなずけます。皮膚のことになると表面にこだわるといったのは、通常の暮らしをしている人たちには当然のことです。ヒトの皮膚は、せいぜい負傷したときに、いくらか断面をのぞくのみで、皮膚の大事な機能をもつ厚い層は分かりません。人体の臓器というのはどれも同じこと、胃でも、肝臓でも、臓器の姿は画像・絵で認識しているのが普通です。

 皮膚が臓器であるというのは、皮膚それ自体が独自に感じ、考え、判断して行動するからです。臓器にはそれぞれ役割があって、自主的に働いております。皮膚には身体を守るという機能がありますが、ただ、包装紙のように身体を包んでいるだけではありません。環境に応じて皮膚が判断して、皮膚独特の方法にて身体の平常を維持しております。成人の皮膚面積は約1.6平米で、厚さは場所によって異なりますが、1.5~4mm、重量は約3kgになります。脳は約1.4kg、肝臓は約1.5kgですから、体の中で最大の臓器であるというのは確かです。

2.皮膚とセンサー

 皮膚は外部環境と接しているので、外部の情報を取り入れて中枢に伝えます。機械刺激、温度刺激、化学刺激などが皮膚の受け持つ分野です。このような感覚は通常は神経細胞が感知して伝達するのですが、最近の学説では神経細胞よりも先に皮膚表面をおおう表皮の細胞(ケラチノサイト)が先に感知するといわれております。これが皮膚独自のセンサーです。今なお研究中ですが、皮膚は光を感じるのではないかという説もあるようです。

 皮膚の役割で大きいのは体温の維持と水分の保持です。体温調節そのものは中枢神経系、脳の視床下部にてコントロールされておりますが、温度が上昇すると、発汗、血管拡張あるいは浅速呼吸など熱を放散するための反応が現れます。このうち、皮膚は発汗をつかさどります。身体の水分を蒸発させると気化熱が奪われるので、表面温度は下がります。皮膚からの水分の蒸発では汗が皮膚の汗腺により出てきます。ただし、皮膚からの水分蒸発は汗以外の方法でもわずかに行われております。

3.皮膚は脳である

 皮膚には独自のセンサー(受容体)があって、これにて外部刺激を受けて、状況を判断し、特定の外部刺激には反応することが出来るということです。通常であれば、神経細胞が刺激を感知して中枢へ伝えて、その結果反応するという仕組みです。

 皮膚に脳があるという学説が発表されたのは、今世紀に入ってからのことです。

 皮膚のセンサーは表皮の一番外に当たる部分、ケラチノサイトにあります。実験では神経系の情報伝達物資を皮膚に塗ったとき、皮膚はそれに反応したということです。皮膚にはこれらの薬物の受容体があるということを示しており、実験者は脳と同じような高度な情報処理機能を皮膚は備えているのではないかと、述べております。

4.バリヤー機能

 皮膚のバリヤー機能は重要です。皮膚は包装資材ではないと冒頭に書きましたが、皮膚の機能の一部にはそのような働きはあります。ある商品を包装する際、包装資材の選択では、いつも資材のバリヤー機能が選択の要素になります。バリヤー機能とは、簡単にいえば、置かれた環境から中味を守るために有している性能です。たとえば、包装では遮光、防湿、対衝撃、対引き裂き強度とかいろいろな要因があげられます。

 牛革、馬、羊ほか種種の動物の皮が革となって、暮らしの道具、運道用具、携帯用品、服装などに用いられるのは、いずれも皮膚のバリヤー機能、なかでも皮膚の機械的強度を重んじて用いられます。

 生体における皮膚の重要なバリヤー機能は体重の70%を占める水分の保持です。水が体内から流れ出る事を防止する為に、皮膚の角層が重要な役目を担っております。外部の環境が低湿度になると、皮膚は外部環境に敏感になり、角層の増殖は進みます。

5.皮膚と東洋医学

 東洋医学の世界では、「病」と「気」が重く見られております。皮膚は「気」というか、心の動きにも敏感です。皮膚に激しい症状を現すアトピーは一説にはストレスとの関連が無きにしも非ずといわれております。皮膚は心の動きに表情の一つとして反応して、いわゆる顔色の変化が起こります。

 また、東洋医学では鍼灸が古来の治療法として今日も行われております。「つぼ」へ針を刺して、刺激を与え、疾患の治療に役立てる事があります。「経穴」は皮膚にある作用点で、それを結ぶのが「経絡」という東洋医学独特の「気」の伝達経路です。これらがいずれも皮膚に存在しているという前提で鍼灸治療は行われ、実績をあげてきております。

 薬物の方でも漢方薬をのんでいると皮膚がきれいになるといわれ、慶應義塾大学病院では研究がすすんでおります。腸がきれいになると皮膚がきれいになるというので腸と皮膚とに共通の抗原があるのではないかというので、アトピー性皮膚炎の小児に建中湯類を投与する治療が研究されております。

 東洋医学では皮膚の扱いはまさしく臓器並であると言ってもいいでしょう。

 皮膚とは一体何か、入浴剤延寿湯温泉をいれたお風呂で、じっくり考えてみてください。

 皮膚をいたわる入浴剤「延寿湯温泉」・化粧石鹸「延寿せっけん」の役割を改めてご理解いただけることでしょう。

<参考文献>

傳田光洋:皮膚を考える、岩波書店(2005年)
 本書は最近の学説最前線を分かりやすく解説しております。本文は本書を中心に執筆しております。
田上八朗:皮膚の医学、中央公論社(1999年)
真島栄信:生理学、文光堂(1986年)