カビ

 まだまだ、本州は梅雨の真っ最中です。7月中旬にならないと青空に白雲もくもく、真夏の太陽はのぞめないでしょう。

 じめじめ梅雨の季節といえば、通常はカビの季節といいますが、この道の専門家はこれを否定し、カビの季節は12月~4月であるといいます。これは建築様式の変化、暖房設備の普及などによるのだそうです。しかし、最新の日本薬学会の会誌を読んでいたら、カビ(真菌)の落下数の多いのは6月および10月であると書いてありましたので、やはり梅雨=カビの季節でいいのでしょう。

 カビは、アレルギーの原因になるほか、不潔、不快、厄介モノなど、好ましくないイメージが多々ある中で、医薬の世界では抗生物質の産出で欠かせませんし、また、生薬の分野にも、霊芝やアガリクスなどキノコ類が、カビの仲間で、健康補助食品で奮闘中しております。さらに、発酵分野ではアルコール、味の世界でもきわめて重要な位置にあります。

 カビといえば、このところ、一番お悩みなのは文化庁でしょうが、しかし、同じように家庭でも風呂場の壁面のカビにお悩みの方も少なくないでしょう。

1.カビの仲間

 カビやキノコは真菌類に属する植物です。植物と言っても下等な部類に属し、葉緑素を持っていないので、自分で糖やでんぷんが出来ません。どうしても、他の生物に寄生することになります。カビとキノコの違いはキノコが子実体というものを作ることにあります。

 子実体は椎茸やアガリクスなどの、本体になっている部分です。

 真菌類は、7~8群に分けられますが、大部分はアオカビでおなじみの子嚢菌類にはいります。アオカビは食品腐敗の原因になっておりますが、ペニシリンを作るのもこのアオカビです。子嚢菌類には、そのほかあま酒を造るコウジカビ、糖分をアルコールに変えるコウボ菌、パンを作るイースト(酵母)なども含まれます。変わったところでは、生薬の冬虫夏草もこの中に入ります。

 風呂場のタイルの目地や冷蔵庫のパッキングにつく、黒いカビはオーレオバシディウム菌、およびクラドスポリウム菌といいます。高松塚壁画のカビは写真で見たかぎり、多分この仲間ではないかと思ったのですが、文化庁の報告書にはアオカビが大部分であると書いております。

2.カビと細菌

 生薬の日本薬局方微生物試験では真菌(カビ)類と細菌が対象になります。真菌と細菌とは一つの細胞で出来ている微生物というグループにまとめられております。細菌はこの微生物の中ではもっとも小さく、植物の仲間に入っております。ただし、微生物というのは全てが植物ではなく、アメーバは動物に属しております。

 カビと細菌の違いは、増殖の仕方にあり、細菌は細胞の分裂で増えてゆきますが、カビは胞子がちらばって増えてゆきます。

 タイルや壁のカビを除去するときは、荒っぽくこすると胞子が散らばって、別の場所で増えるのでかえってよくないといいます。濡れたもので静かにふき取るのがいいそうです。

3.風呂場のカビ対策

 黒いカビ、オーレオバシディウム菌というのは、なかなかたちが悪く、頑強なカビです。

 プラスチックスにもしっかり付着し、紫外線には強く、乾燥、低温、風雨にも強いというカビです。クラドスポリウム菌も和名を黒カビというほどですから、これも強いカビです。

 高松塚古墳のカビはアオカビのほかにフザリウム菌が多いようです。ほかにトリコデルマ菌が上がっております。このトリコデルマ菌は住宅の中、壁紙などに繁殖するカビです。

 風呂場のタイル目地につくカビは、オーレオバシディウム菌、クラドスポリウム菌などですが、風呂場は人の垢や汚れが壁についており、湿気もあって、カビの好物に溢れています。非常にカビの繁殖しやすい場所です。実際にこの黒いカビが繁殖し始めたら、なかなか取れないので、出来るだけ予防に努めるようにと専門家は言っております。予防というのは、カビの嫌いな環境にすることです。

 カビの生えにくい環境とは、風通しをよくして湿気を追い出し、できるだけ乾燥させておくことです。カビは40度の熱でほとんどが死滅しますが、壁ではこの熱作戦は難しいでしょう。消毒用アルコールはカビを殺すのに効果的です。

 カビが着き始めたら、カビとりスプレーを使いますが、次亜塩素酸ソーダと苛性ソーダの混合液で効き目はあるものの過信は出来ないようです。強アルカリ性で取り扱いにも注意しなければなりません。カビとりスプレーはすべてのカビを綺麗にとってしまうので、かえってそれが黒カビの再生を助長し、生えやすくするという説もあります。また、スプレーは噴射力があるので胞子をあたりに吹き飛ばすので、好ましくないとも言います。

4. カビと入浴剤

 ここで問題にしたいのは、風呂場のカビではなく、人体のカビです。人体とのかかわりで厄介なカビはアレルギーの原因になるということです。アトピー性皮膚炎の後天的な因子の一つがカビです。カビそのものがアレルゲンになりますし、またハウスダストの大部分はカビが占めているといいます。カビと感染という面では白癬菌の水虫、カンジダ症などがあげられます。日本人は5人に1人が水虫患者といいます。ほかに田虫もあります。毎年毎年のように新しい水虫薬はでるのですが、なかなか水虫は消えません。したたかなカビです。

 生薬入浴剤 延寿湯温泉には、抗真菌効果のある生薬マツカワが配合されておりますので、水虫にも効果が期待されております。しかし、塗り薬と違って入浴剤は濃度が低いので、作用は穏やかです。そのほかに、入浴剤には皮膚の清浄作用、血流改善もあるため、皮膚のカビには少なからず効果があるといえましょう。

 <参考文献>

ファルマシア 7月号、日本薬学会(2006)
井上真由美:カビの常識 人間の非常識、平凡社(2002)
服部勉:微生物を探る、新潮社(1998)
科学の辞典第3版、岩波書店(1985)