肩こり

 人間が歩くようになってから約500万年たちました。人間が立って歩くようになったために、その姿勢が腰痛、肩こり、五十肩を生み出したといいます。これらは国民病ともいわれるほどなじみの深い症状です。とくに、中高年になると、加齢とともに身体はあちこちに障害が出始めます。その中でも特に多いのが肩こり、五十肩、腰痛です。50歳、60歳ともなると、半分に近い人がこれらに悩まされているのではないでしょうか。秋も深まり、厳しい寒さの冬を迎えるにつれて、お悩みの方は増えてきます。

 肩こり、五十肩は同じ肩の字がついてはいるものの、前者は首の周辺の筋肉の張り、五十肩は肩の関節の痛みであり、両者はまったく別の物です。延寿湯温泉の持ち味が生かされる代表的な効能の一つは肩こりですので、今回は肩こりを取り上げます。

1.肩こりと五十肩

 肩こりも五十肩も漠然とした症状で、医学の世界ではなかなか認知されず、むしろあいまいな肩こり、五十肩という俗語のまま、病医院でも通っているようです。

 50歳の人に起きるから五十肩ですが、この名前はわが国には江戸時代から使われており、当時の寿命から五十肩にかかるのは長命の印であると言われておりました。

 五十肩は肩に激しい痛みを伴う疾患の一つですが、病気としてのはっきりした定義はなく、医師のなかにはカルテに「肩関節周囲炎」と書く場合もあります。英語ではfrozen shoulderといいます。

 ところで、肩こりも同様に定義は定まらず、これは病気ではないといわれていましたが、最近は疾患として認められて、内科、あるいは整形外科で診療されております。内臓がおかしいという人は内科に、特に原因の思い当たらない場合は整形外科で診てもらいます。   

 肩こりは疲労のために肩の筋肉が張ることで、ある調査では日本人の8割が「肩がこる」と答えており、別のデータでは主婦は4人に一人が肩こりであるといいます。肩こりは日本人固有の病気であるといわれております。アメリカ人にも時には肩こりを訴える人はいるそうですが、非常に少ないといいます。肩こりにぴったりの英文はありません。しかし、中国には漢方にて肩こりを痃癖(げんぺき・けんぺき)といって、葛根湯などが治療に使われていますので、東洋圏には、日本ほどではないにしても、存在しているのでしょう。

 なぜ肩こりが日本人に特有の症状であるかについて、整形外科の信原先生は、①姿勢の悪さ、背筋をぴんと伸ばす躾が日本にはない ②畳の生活は背筋を真直ぐにしない ③食生活、胃を刺激するものが多いので、胃腸の調子が悪い などを挙げておられます。

 肩こりにはいろいろなタイプがあり、信原先生は、次のように分けておられます。原因ともつながり、わかりやすい分類です。

①肉体労働型肩こり・・重いものを持ったり、肉体労働をする人・したとき
 入浴、マッサージ、指圧などが効果的です 

②ストレス型肩こり・・入浴で気分をリフレッシュ、温かい湯がコリを和らげる

③ 運動不足型肩こり・・水泳、ジョギングなど全身を使う運動がいい

④内臓原因型肩こり・・内臓の病気を診てもらい、原因になっている病気を治療する

⑤体形原因型肩こり・・乳房の大きい人、なで肩の人、肥満タイプ。良い姿勢を心がける

 これらのタイプで分かるように、肩こりの原因は悪い姿勢、急激な運動で肩に負担のかかったとき・重い物の持ち上げ、長時間の不自然な姿勢などですが、他によく問題になるのは精神的緊張で、別の言葉でいえばストレスです。ストレスのたまったときは、疲れて肩を落とし、首をたれ、背を丸める姿勢のとられる場合もあり、これは肩こりを招く好ましくない姿勢にあげられております。

 内臓の疾患が肩こりの原因となるというのはあまり多いとはいえず、大部分は上述のような悪い姿勢、運動不足やストレスですが、しかし、内臓に疾患があるかもしれないという警報は重要ですので、早めの受診が必要になります。疾患としては、肝臓、胆嚢など内蔵の異常、胸部の病気として、肺結核や肋膜炎、心臓の狭心症や心筋梗塞。高血圧、低血圧、更年期障害。そのほか頭痛、歯痛、等もあげられます。

2.肩のこりとは

 肩こりとは肩のこわばりですが、表現ではいろいろあり、張った感じ、つった感じ、こわばった感じ、重い感じ、疲れたような感じ、不快な感じ、などと、肩こりを経験した人は説明します。肩こりの場所、影響を受ける筋肉は首から肩周辺にある僧帽筋、菱形筋、三角筋、肩甲挙筋などです。 

 「こり」は筋肉の疲労が主な原因で、本来は弾力に富む筋肉が文字通り固くなってこわばっている状態です。筋肉がこわばるということは筋肉を構成する筋繊維細胞の水分バランスが崩れて硬くなることで、その結果、筋繊維内の血管や神経線維が圧迫されて血行不全、痛みが起きます。血液が不足すると疲労物質の排除がうまくゆかず、また、酸素の補給も不十分となります。

 たとえば、長時間持続する頭痛の場合、肩の筋肉に収縮を招き、筋肉の長期間の収縮は局所血流量の減少で虚血状態がおこり、これが痛み、「こり」の原因になるといいます。

3.肩こりの防止

 肩こりからわが身を守るためには、まずは血行を良くすることです。血液の循環を円滑にし、全身にたっぷり酸素を与え、疲労物質を取り除くことが防止の基本です。筋肉の血行を良くして、常日頃、身体のだるさ、筋肉のだるさを取り除きます。筋肉が縮みっぱなしでは血行は悪くなります。

 血行を好くするためには、日日どういうことに気をつけたらいいか、簡単にまとめておきます。

(1)正しい姿勢

 肩こりを防ぐには何よりも日常の姿勢の正しさが求められます。正しい姿勢とは、背筋をまっすぐに伸ばし、あごを引いて、頭の上にリンゴがのっているような格好であるといいます。こういう姿のできる時というのは、やはり、心にゆとりがいります。ストレスの高まっているときにはできません。せわしい現代の暮らしを思うと肩こり防止に好ましい姿勢を保つには難しさがあります。

(2)伸び伸び運動を

 もう少し積極的に防止に努めるにはストレッチ運動を暮らしの中に取り入れることです。一日に何回も首筋の筋肉ストレッチを試みることです。これは大げさなことではなく、いすに腰掛けているときは、時々背伸びして、背中をそらすことです。枕にうつぶせになり、2,30秒じっとしているのもいいそうです。

(3)入浴

 血行を改善するには入浴で身体を温めるのは良い方法の一つです。若い人の疲労による肩こりは少し熱い目の入浴やシャワーで十分効果がありますが、高齢者は危険です。入浴の際の水圧で毛細血管や静脈が圧迫され、ほとぼり出る血液が心臓の負担になります。ぬる目の風呂にゆっくりつかり、あわせてストレッチも試みることです。

 入浴の際には、入浴剤の延寿湯温泉を入れると効果は一層高まります。延寿湯温泉には血行を改善する生薬が配合されており、血行改善に緩やかな効果があるからです。

<参考文献>

荒井孝和:腰痛・肩こりの科学、講談社(1996)
加藤文雄監修:NHK今日の健康 肩が痛い、腕が上がらない、日本放送出版協会(2001)
信原克哉:肩こりの本、神戸新聞総合出版センター(1989)
上田英雄ほか:臨床症状シリーズ腰痛・背痛・肩こり、南江堂(1980)