泉質:温泉の成分と効能
2004年の年賀はがきの切手部分の図柄では猿が温泉につかり、気持ち良さそうな表情をしております。
お正月を温泉でのんびり過ごされた方もおありでしょう。温泉といえば、最近は温泉博士という人たちも現れて、温泉の週刊誌、ガイドブックが書店に沢山並んでおります。
一言で温泉といっても、その種類はいろいろです。また、温泉には「温泉法」という法があって、温泉はこの法律によって「公共の福祉の増進に寄与」しており、健康との繋がりに深い関係があります。
温泉の話題はとにかく豊富にあり、かつ広いので、今回は入浴剤の源泉である温泉の質、効能を中心にまとめることにいたします。延寿湯温泉の成分もこの自然の温泉とは少なからず縁があるからです。
1.温泉の熱源は
温泉の成分を考える前に、温泉の熱は何処から来るか、これをまず調べて見ないといけません。温泉とは暖かいのが普通であり、熱源は次の3種あります。
・火山性温泉 ・深層温泉 ・新生代酸性岩性温泉
大部分は火山由来であり、実際にはこの火山の熱は放射能の崩壊で発生しております。地球の中にはウラン、トリウムやカリウムなど寿命の長い放射性元素が豊富にあり、エネルギー源は放射性元素の崩壊熱にあるというのです。この熱がマグマを生み出し、マグマは火山となって飛び出してきます。マグマの熱で暖められるのが大部分の温泉です。温泉を探す時にはヘリコプターで放射能を測定して場所を見つけるいう方法がかなり普及しております。それほどに、放射能と温泉とはつながりがあります。
全く火山なしで出てくる温泉もあります。地熱による温泉です。地熱というのはマグマに接触して熱くなった地球深部の層をいいますが、マグマが外へ出てくることはありません。そこが火山との違いです。地熱の温泉はわずかです。世界の温泉の分布を見たとき、多くの火山帯に温泉はありますが、しかし、シベリア、中国大陸、オートラリア北東部など火山帯でないところにも、若干、温泉はあり、欧州の温泉は非火山性が多いようです。
さらに、新生代酸性岩性温泉というのがあります。火の塊であるマグマとも縁のない温泉で、新生代という大昔、鮮新世(200~300万年)にできた大きな酸性の岩体に蓄えられた熱がいまだに放熱し、この岩に浸透した雨水が温められて温泉となったものです。 有名な紀伊の白浜温泉(78℃)、近畿の有馬温泉(96.5℃)がそうです。
火山との関係を見ることは温泉の質・成分を決めるポイントになります
2. 温泉とは何か
温泉法第2条による温泉とは
「地下から湧き出す温水、鉱水および水蒸気、その他のガスで、温度が25℃以上あるか、または決められた成分のいずれか1種類以上含むもの」と定められております。
その成分と含有量(1kg中)は次の通りです。
溶存物質 総量1000mg以上
遊離炭酸(CO2) 250mg以上
リチウムイオン 1mg以上
ストロンチウムイオン 10mg以上
バリウムイオン 5mg以上
フェロまたはフェリイオン10mg以上
第一マンガンイオン 10mg以上
水素イオン 1mg以上
臭素イオン 5mg以上
沃素イオン 1mg以上
フッ素イオン 2mg以上
ヒドロひ酸イオン 1.3mg以上
メタ亞ひ酸 1mg以上
総硫黄 1mg以上
メタほう酸 5mg以上
メタけい酸 50mg以上
重炭酸ソーダ 340mg以上
ラドン 20(100億分の1キュリー単位)以上
ラジウム塩 1億分の1mg以上
温泉の種類
温泉にはいろいろな分類の仕方があり、種類は複雑です。ここでは医療、健康に関係が深いので、「療養泉」に絞りましょう。「療養泉」というのは温泉法ではなく、環境省の行政マニュアル「鉱泉分析法指針」に示されております。温泉の中でも、含有する成分によって医療効果が認められる温泉が「療養泉」です。
「療養泉」の定義
- 温度(温泉から採取される時の温度)25℃以上
- 物質(下記に掲げるもののうち、いづれか一つ)
物質名 含有量(1kg中)
溶存物質(ガス性のものを除く) 総量1000mg以上
遊離二酸化炭素 1000mg以上
銅イオン 1mg以上
総鉄イオン 20mg以上
アルミニウムイオン100mg以上
水素イオン 1mg以上
総硫黄 2mg以上
ラドン 30(100億分の1キュリー単位)以上
4.療養泉と効能
この定義に基づいて療養泉は定められ、含有成分によっていくつかの泉質に分けられます。療養泉には泉質に応じて適応症が表示されることがあります。ただし、この効能はあくまでも、サービスであって、法的な規制はありません。医薬品の効能とは大きく異なるところです。
効能書きはサービスと書いたのは、一応、行政から示されたガイドラインを参考に各温泉の経営者側で勝手に掲示しているからです。ただし、温泉法では掲示する際、禁忌症、入浴または飲用上の注意を記述することは義務付けられております。
効能については、温泉ガイドブック等に書いてありますが、著者によって異なる場合もあります。たとえば、本文では参考文献に「温泉で健康になる」飯島裕一著(岩波書店)を引用しており、効能の記述では同書は阿岸祐幸・北海道大学名誉教授の話しを根拠にしております。以下の効能では、一部、「温泉で健康になる」飯島裕一著(岩波書店)を参考にしました。
単純温泉 刺激弱く作用は穏やか、高齢者はじめ万人向け
炭酸水素塩泉 肌がすべすべする美人の湯。アレルギー疾患、慢性皮膚炎他
ナトリウム塩化物泉(食塩泉)保温効果大、関節痛、筋肉痛、リウマチなど
硫酸塩泉 ボウショウ泉では末梢血管拡張作用が大。高血圧症にいい
二酸化炭素泉(炭酸泉)保温効果大、心臓に負担かけずに血圧を下げる「心臓の湯」
含鉄泉(鉄・明礬泉)
単純硫黄泉・硫化水素泉(硫黄泉)動脈硬化、高血圧「心臓の湯」気管にもいい
酸性泉 強い刺激あり、皮膚病にいい
放射能泉 ラジウム、ラドン、トロンが主成分。鎮静作用、リウマチ、神経痛 なお、延寿湯温泉は生薬のほかに、この療養泉の中の「炭酸水素塩泉」の成分を配合しております。
5.温泉と入浴剤
温泉というのは古来療養のために利用されてきました。この温泉の効き目を少しでも家庭の風呂に活かすことが出来ないか、そこで生まれたのが入浴剤です。江戸時代には伊豆の温泉の湯をわざわざ江戸まで運んだり、あるいは京都では有馬温泉から湯を運んだりということもありました。
現在発売されている入浴剤は、温泉系と薬湯系とに分かれます。
温泉系というのは温泉の成分である無機塩類を中心に処方されております。硫黄成分による入浴剤などは典型的な例でしょう。
薬湯系は、これも歴史が古いのですが、仏教渡来のころから宗教上の病む人を救うために、あるいは民間医療の伝統に基づいて、生薬による処方が組み立てられております。菖蒲湯、柚子湯などは今日も民間行事につながってきております。
延寿湯温泉は、主流は生薬配合で薬湯系なのですが、温泉成分も配合されております。延寿湯温泉の処方は、結局、両者の長所を巧みに取り入れて作り上げた入浴剤ということになります。
<参考>
- 日本の温泉総数(2001年3月現在) 26505
温泉を掘ること、および温泉を公共のために利用するには許可がいります。この総数は利用許可数です。
(ベスト5)
- 大分県 4762
- 鹿児島県 2804
- 静岡県 2289
- 北海道 2200
- 熊本県 1345
- 日本の温泉地総数(2001年3月現在) 2988
環境庁は温泉の公共的利用を増進するため、とくに温泉の一定地域を指定します。
この数字は指定された温泉地域です。
(ベスト5)
- 北海道 245
- 長野県 217
- 青森県 159
- 新潟県 141
- 福島県 135
- 日本の温泉地の宿泊施設総数(2001年3月現在) 15512
温泉地域にある宿泊施設の数字です。この数字の多い、少ないは温泉地の賑やかさにもつながってきます。
(ベスト5)
- 静岡県 2364
- 長野県 1395
- 大分県 845
- 神奈川県 816
- 北海道 785
<参考文献>
- 飯島裕一:温泉で健康になる、岩波書店(2002)
- 石川理夫:温泉法則、集英社(2003)
- 落合敏郎:温泉開発、リーベル出版(1993)
- 東京天文台:理科年表2004年、丸善(2003)
<ニュース>
アトピー患者の9割は感染症
久保近大教授 「消毒や入浴が大切」が発表 2003年12月
久保教授は第6回天然薬用資源学研究会にて、アトピー患者の治療においては感染症の原因となる表皮黄色ブドウ球菌の殺菌が重要になると強調し、次のように述べられた。
「アトピー性皮膚炎は風呂に入っていけない」は誤り、「温泉に入ると皮膚が清潔になり、感染症の原因となる菌が消毒されたと理解してよい。したがって、治療は消毒・入浴の繰り返しがポイントとなる」
「薬事日報」 2003年12月15日号
- 延寿湯温泉に配合されている松皮には、抗真菌作用および、黄色ブドウ球菌に殺菌効果のあることが実験で明かになっております。