腰痛

 前回、肩こりを取り上げたとき、人間が立って歩くようになったために、その姿勢が肩こりを生み出したと書きましたが、この腰痛も同じです。人間にとっては宿命の病気です。人間のかかる病気の第1位は風邪で、2位が腰痛だそうです。それほど、腰痛はなじみ深い病気ですので、中高年になると、大部分の方が経験します。

肝腎要(かんじんかなめ)というと、欠くことのできない重要なものの意味に使われます。ここでは肝臓や腎臓ですが、この要という文字が腰につながってきます。腰は体の要であって、肝臓や腎臓同様に、体全体を支える重要な位置にあります。

 腰痛が肩こりと決定的に違うのは、肩こりはどちらかといえば症状であって、病気というにはややためらいがありましたが、腰痛はれっきとした病気であるということです。したがって、ここで取り上げるのは重荷ですので、治療には深入りしないことにします。

1.腰痛とは何か

 文字通り腰の痛みですが、鈍痛から激痛まで、その状態はさまざまです。椎間板ヘルニヤとか、ぎっくり腰とか、腰痛の原因となる疾患はたくさんありますので、腰痛は何によって起きているのかは医師の診断が必要となります。

原因と考えられるものには、椎間板によるものが大部分ですが、ほかに、脊椎の老化、外傷、炎症、腫瘍、内臓疾患、心因性によるもの、などがあります。

 腰痛そのものは病気ですが、それには原因となる病気があります。たしかに、腰痛症という病気はありますが、単純ではありません。

整形外科医の荒井先生は腰痛を起こす病気を10種並べておられます。

たとえば、

①いわゆる腰痛症、筋・筋膜腰痛症・・・腰痛の大半を占める、急にはこない。

②ぎっくり腰(腰椎捻挫、急性腰痛症)・・・急な動きで突然起きる。

③腰椎椎間板ヘルニア・・・好ましくない姿勢、加齢による骨の劣化による。

このほかに、まだまだあるのですが、おもな疾患だけに留めておきます。

先生は最後に内科や、泌尿器科、婦人科などの病気につながる場合をあげておられます。

 腰の痛みが、どのあたりにあるか、部位によって疾患のおおよそが判明する場合もあります。たとえば、次の3つの例があります。

①腰だけに限られる場合

②腰のほかに尻、太ももの後ろ側、太ももの付け根にもある

③腰のほかに膝から下にもある 

 医師に診察を受ける場合は、原因を推定し、治療するために、ほかに次のことも問われますので、腰痛の時にこれらを把握しておくと良いでしょう。

  • 一日のうちに痛みがどのように変化しますか。

たとえば、朝起きたときが痛く、昼間には痛みは取れる

  • 痛みと姿勢・動作・歩行とはどのように関係していますか。

たとえば、寝ていれば痛くないが、少しでも体を動かすと痛い

満足に00mも歩けない

  • どこを押すと痛いですか。

 たとえば、背骨の両側を走る筋肉を押すと痛い

  • 下肢に痛み、しびれがありますか。

腰痛の主な原因が明らかになったのは、19世紀になってからですが、主役である背骨のクッション、椎間板に目が向けられたのは、比較的新しく、1930年代です。背骨の腰部にある椎間板あるいは椎間関節の異常が腰の痛みを起こすようですが、先にも書いたように、多くの疾患が関係しているので一概にはいえないようです。

2.腰痛を引き起こさないようにするために

 腰に痛みを感じたら、とにかく安静にしなさいというのが、専門家のアドバイスです。痛くない姿勢で寝ていれば、たとえ激しい痛みのぎっくり腰でも、4日間も寝ていれば、動けるようになるといいます。

 しかし、とかくせわしいご時世のこと、じっくり安静もできない方が少なくないでしょう。せめて、予防に気を配り、腰痛を起こさないように心がけることにいたしましょう。

①正しい姿勢が基本です

 これは肩こりのときにも出てきました。正しい姿勢とは肩こり防止のときと同じで、あごを引き、首をできるだけ長く伸ばし、腰のそりを減らし、尻を出さない、要するに頭の上にリンゴを載せて歩く姿です。ハイヒールは良くないという説と、履きこなせばかえって、姿勢はよく、好ましいスタイルであるといい、両論あります。

②寝るときは自分の好きな格好で

 寝る姿はあまり問題にしません。布団は柔らかすぎて身体の沈むほどの寝具は避けたほうがよく、日本の伝統的なやや固めの綿布団がお勧めです。

 枕はあまり高くない方がいいようです。

③軽い運動を常時する 

 腹筋、背筋、下肢の筋肉をゆるやかに鍛えます。それぞれ、鍛える運動はあり、効果的ですが、全身を伸び伸びさせるラジオ体操もいいでしょう。

④いすに長時間、座り続けない

 いすの形、高さや、背もたれ、シートなどは、腰痛につながる要素は大きいので、十分検討の余地はあります。どういういすが良いか、というのは、体型にもよるので難しく、ある程度は慣れもあります。せっかくの良いいすも座り方によって、痛みを招く場合もあります。時々、軽いストレッチ運動するとか、いすから離れてぶらりとすることも効果的です。

⑤入浴で腰部を温める

 腰部の血液循環をよくして、筋肉の緊張を取り除きます。ぬるめの風呂にゆっくりつかり、ストレスを発散させて、心身ともにリラックスさせることです。入浴剤 延寿湯温泉はまさに、そのためにあるようなものです。アロマテラピーとして心を鎮める効果と、血流改善の作用があります。

<参考文献>

荒井孝和:腰痛・肩こりの科学、講談社(1996)
見松健太郎ほか:優しい肩こり、腰痛、シビレの話、名古屋大学出版会(1997)