冷え性 女性の半数が困っている

 肩こりと同じように医師によっては病気ではない、と扱われる場合もありますが、逆に女性にとっては、病気の根源になるから真剣に対処すべきであると、おっしゃる先生もおられます。冷え性は多くの方がお悩みで、しかも、症状がはっきりしているので、不快な症状には何とか打ち克ちたいものです。肩こりや、腰痛と同様に古くから、お悩みの方が多いということは、それだけに厄介な症状、病気なのでしょう。

 冷え性というのは、原因が明らかではないこともあって、治療法は確立していません。身体を温めるために、食事内容・方法を変えたり、生活習慣を改めたり、あるいは運動に励んだり、冷え性の克服には、いろいろの療法が試みられています。

 冷え性には「冷え性」と「冷え症」とがあります。両者の用語にははっきりした語義はありませんが、強いてあげれば病気として扱うときには「冷え症」が、病気ではなく、一種の体質として扱う場合には前者が用いられているようです。本紙では一般的に広く使われている「冷え性」を使います。

1.冷え性という症状

 単純ですが、手足が冷える、腰、足が冷えると訴える場合をいいます。そういう人たちの手足に触れてみれば、確かに冷たく、体温の差を感じます。痛みの訴えは他人にはわかりませんが、この冷え性だけは、触ってみれば、他人にも、なるほどと分かるものです。

 冷えは明らかに表面体温の低いことは確かめられています。からだの表面の温度が高いか、低いかは、通常は皮膚表面の血管が収縮しているか、拡張しているか、血管の状態、血流量に左右されます。それは色にも出ますが、たとえば、顔面蒼白、逆に顔面紅潮がりあります。これらは自律神経にてコントロールされ、交感神経と副交感神経の両者の働きで、血流は調整されております。

 自律神経というものは意識的に左右できるものではありませんが、自律神経調整作用は、心に連動して人の動きを巧みに捉えて、血管の拡張、収縮をバランスよく行うため、円滑に働いておれば、快適な24時間を送ることができます。自律神経のバランスの崩れが自律神経失調症といわれております。冷え性の原因の一つに、のちに触れますが心身症という説があるのは、こういうところにつながってきます。

 もともと冷え性は女性に圧倒的に多く、半数以上の女性が訴える疾患であるとも言われており、医学的には冷え性を「冷覚過敏症」といいます。最近は明らかな疾患として治療対象にはなっており、この場合、広義には、自律神経失調症という疾患名が与えられます。医学が冷え性を疾患として取り上げ出したのは比較的新しく、1960年以降といわれております。日本古来の病気の歴史では、「血の道」が古くからあり、江戸時代では「冷え」は、女性の場合「血の道」の中に含まれて、治療がおこなわれていたようです。細かい話ですが、江戸時代には「冷え」という疾患は能書きにも出てきますが、「冷え性」はほとんど出てきません。「冷え性」はつい最近の言葉であると理解したほうがいいでしょう。

 冷え性は日本の女性独特の体質であるのか、あるいは海外、欧州、アジア地区にあるのか、はっきりしません。漢方の国、中国の用語には冷え性にぴったり一致する用語が見当たりません。

2.女性の病気は冷えがつくる

「女性の病気は冷えがつくる。男性の病気は興奮がつくる」とは新潟大学の免疫学者 安保徹先生のお言葉です。さらに、安保先生は「女性が健康で長生きするためには、あるいは病気にならないためには冷えへの対策が一番大切である」と書いておられます。冷えの症状は血管の太さに左右され、総じて女性は血管が細いので血流が抑制されやすく、血流が滞るために「冷え」がおこるといいます。

 女性で冷えを訴える部位は、腰が40%、足が29%、脚部が15%、手は7%となっております。冷えを訴えるのは、もちろん、冬が一番多いのですが、最近は冷房の普及というか、かなりきつい冷房があって夏にも冷えを意識する女性が多いようです。

 冷えを訴える女性の年齢は、15~20歳の若い子、それに更年期の女性と、2分されています。この年頃の女性は、ホルモンバランスの乱れにより、自律神経系に不調が現れる傾向があるというので共通点があるようです。

 この冷え性というのは、原因にはいろいろあり、現段階ではまだ定説はありません。江戸時代には「血の道」症として、血流の滞る疾患の中で扱われ、冷えそのものは血液・血流に深くかかわりますので、疾患としてみれば大きく隔たってはいません。しかし、冷えという現象がどういうときに、どのようにおこるのか、ということがはっきりしていません。原因には、自律神経失調、更年期障害、低血圧症、心身症、貧血と結びつけられる場合があります。ここに結びついている疾患が、これまた単純ではないので、根本的な改善はなかなか容易ではないようです。冷え性そのものの治療は、明治になってからではないかというのが、一つの学説です。ちなみに、現代の中国の医学、中医学には冷え性は治療対象になっていない場合があります。

 「女性の病気は冷えがつくる」という安保先生の主張は、冷えが血流にかかわっており、それが自律神経の不調から来ているということであるために、病気の根源と捉えられています。

3.改善には入浴が一番いい

 もっとも手軽に冷えの症状を改善するにはとにかく体を温めて、血流を良くすること、すなわち、血の巡りをよくすることです。血行改善という言葉が用いられます。それには入浴が一番です。先ほどの安保先生は入浴ほど血行を良くさせるものはない、だから健康法として非常に効果があると、入浴による血行改善を薦めておられます。熱い湯は疲れが出るので、40度以下のぬるめの湯でゆっくり入るほうが効果的のようです。

 しかし、入浴は暮らしでは常にというわけにはゆかず、制限があります。最近は生活習慣を改めるということが、しばしばマスコミにも出てきます。冷え性の改善も、体を冷やさないための服装とか、保温材の使用など、いろいろ暮らしのうえでの工夫は必要ですが、積極的に健康増進を図るには体操と散歩で全身を動かすことが望まれております。運動は継続して、毎日、毎日続けることが効果的で、ラジオ体操のように全身を使う運動はお勧めのひとつです。 

 薬による治療は本欄では領域外ですが、生薬とかかわりの深い東洋医学が冷え性の治療には活躍しておりますので、簡単に触れておきましょう。

 自律神経失調症の改善となると、東洋医学の出番です。もちろん、新薬も沢山出ておりますが、一臓器が対象ではなく、全身の自律神経系に働き、効能を期待するとなれば、これは漢方の得意とする分野になります。江戸時代の「血の道」には、漢方がしばしば、登場しております。冷え性に良く使われる漢方には、たとえば、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸などがあります。桂枝茯苓丸は一般用医薬品として、今日も広く使用され、効能効果には、血の道症が認められております。解説では、血の道を微小循環の障害による局所または全身のうっ血、内分泌障害、自律神経の失調などにより現れる諸症状、とあります。

 おわりに、入浴には入浴剤の使用をお勧めします。血流改善に効果のある生薬を選んで入浴剤に仕上げた、たとえば「延寿湯温泉」などは、冷え性改善を得意の領域にしております。

<参考文献>

1.栗山茂久ほか:近代日本の身体感覚、青弓社(2004年)
2.主婦の友編:冷え性の治し方、㈱主婦の友(1985年)
3.大塚敬節:漢方治療の実際、南山堂(1963年)
4.安保徹:こうすれば病気は治る、新潮社(2003年)