入浴で身体を温め 免疫力を高める

 風呂にゆったりとつかり、からだを温める、これには前回の冷え性の改善という意味ではなく、健康のために、もっと大きな目的があります。免疫学者で一般の人に優しく医療を説く新潟大学医学部の安保徹先生は、入浴して身体を十分温めることが、健康保持にいかに重要であるかということを、解説しておられます。

 ちょっと長い引用ですが、お風呂の一番大事なところを観察し、感想を述べておられますので、そのまま転記します。これは先生の著書「体温免疫力」(ナツメ社2004年)冒頭の部分です。

 「温泉に行ったり銭湯に行ったとき、湯船につかりながら人々のようすを眺めていると、いろいろな人がいるものです。目をつぶっていかにも気持ちよさそうに湯につかっている人もいれば、せっかちな人もいます。さっさと体を洗ったかと思うと、湯船にほんの数秒入るだけ。あっという間に湯船から飛び出て、脱衣所に消えてゆきます。私はこのような人に会うと、せっかくリラックスできる入浴の場なのに、じつにもったいないなあと残念に思います。同時に、その人の健康がとても心配になります」。

1.免疫力を高めることの重要性

 インフルエンザや風邪にかかったりして熱の出たとき、ある程度まではそのままにして、熱を下げない方がいい、ということが最近言われています。子供の場合、インフルエンザ脳炎にかかるのは、解熱のために非ステロイド系解熱鎮痛剤を投与するからではないかという説もあります。幼児が熱出して弱っているときに、どこまで、放置しておいて良いかは難しいことではありますので、これは医師の指示に従うことでしょう。

 それはさておき、問題はこのようにインフルエンザに感染したときの体温の上昇です。

 体外から、ウイルスや細菌が侵入したとき、私たちの身体は、これらのウイルスや細菌を排除するために猛然と戦います。ウイルスは熱には弱いのです。発熱はウイルス退治のために起きます。

 国境侵して国籍不明の飛行機が侵入すれば、いわゆる領空侵犯として、自国の戦闘機は迎撃して、追い出すか、時には撃墜することがあります。海でも同じことです。   

 ウイルスの体内への侵入はまさに領海・領空侵犯です。

 この迎撃の行動が体内でおこなわれることを免疫とよんでおります。体内で迎え撃つのは通常はリンパ球です。このリンパ球を活動しやすくして、戦闘能力を高めることが、免疫力を高める、にあたります。ウイルス侵入で熱が上がってきているのは免疫の戦いが始まっているのです。

2.がん細胞と体温上昇

 がん細胞も熱に弱いのです。この原理を応用して、体温を上昇させてがん細胞を殺して排除しようというのが、ハイパーサーミア、すなわちガンの温熱療法です。

 もう少し詳しく、この仕組みを見てみましょう。

 ガンにはいろいろの種類がありますが、ここで対象となるのは、身体の一部の細胞が野放図に増え続けて腫瘍を作ってゆく固形腫瘍で、たとえば血液ガンというのは対象にはなりません。温熱というのは、風呂を前提にしており、ぬるい風呂で39度、普通は41~42度、熱め好きで43度ぐらいです。

 身体のタンパク質は通常は40度以上で変性して破壊されますが、それにもかかわらず41度の風呂が気持ち好いのは、人をはじめ、生物には熱ショックたんぱく質があって、これが身体を保護するために働くからといわれております。

 がん細胞は外から熱が加わると温度が上がりやすく、また、がん細胞は血管がもろいので、熱くなっても血管が拡張できないため、温度が上がると、血流はますます悪くなりがん細胞の酸素は不足してきます。酸素の欠乏した細胞は酸性にかたむき、いっそう熱に弱くなります。こうしてがん細胞は温度の上昇で破壊されてゆくことになります。

 体温を上げてガンを治療する、いわゆる温熱療法、ハイパーサーミアは、治療法も確立して、高価な設備を必要とし、実際、わが国でも一部の特定医療機関で行われております。

 また、温熱療法の一つに、病原菌を使って身体を発熱させ、ガンを治そうという試みはこれまでも、好結果を得たという症例報告はありますが、この病原菌投与の方法はまだ実用にはいたっておりません。

3.身体を温めると免疫力は上昇する

 身体を温めると免疫力が向上する、これは最近分かってきたことなのです。免疫には自然免疫と獲得免疫の2種類あり、身体を温めると高まる免疫力というのは自然免疫のほうです。病原体が体内に侵入してきたとき、その場所で戦いがはじまります。これは、自然免疫の領域で、体内の組織には見張り番として樹状細胞というのがあって、これが侵入してきた病原体に近づいて、病原体を捕獲したり、後方の支援組織に警報を発します。侵入物撃退の戦いは規模により拡大され、病原体を殺して排除し、増殖を防止します。

 身体を温めると、この樹状細胞が増えてくるのです。また、熱ショックたんぱく質も増加してきます。この熱ショックたんぱく質には細胞を清潔にして、活力をやしなう作用があります。免疫力を高めるだけでなく、熱ショックたんぱく質は細胞をきれいにすることから、アルツハイマー病の原因の一つと考えられているアミロイドたんぱく質の凝集を防止するという説があります。

 風呂や温泉の好きな人は熱ショックたんぱく質が増えてくるのでアルツハイマー病にかかりにくく、予防しているのではないかといわれています。

4.安保先生の入浴健康法

 安保先生は体温を維持して健康的に暮らしたり、体温を上げて免疫力を高めるためには、一番手っ取り早いのが入浴であると、入浴健康法を推奨されておられます。

基本は ぬる目の湯にゆったり入ることです。心地よく感じる湯の温度は人によって異なりますが、先生は、大体、体温+4度を奨めておられます。これは厳密なものではなく、実際にはそれぞれ自分で快適な温度は見出してくださいということです。

 入浴には全身浴と半身浴とがあります。全身浴は長くつかると水圧で心臓が圧迫され疲労も出るので、大体10分ぐらい、半身浴は30分から1時間で、新聞読んだり、音楽聴いて、のんびりつかります。のんびりも良いのですが、とにかく気分良くつかっていることが大事ですので、時間は自分で適当に決めます。

 いずれの場合も、湯から出るときはゆっくりにというのが大事です。また、湯船に入る前には足もとから かけ湯をして、急に温かい湯に入って心臓に負担かけないよう注意することが望まれております。

 入浴にはいろいろの効能のあることがお分かりでしょう。ガン、ウイルス退治、アルツハイマー、冷え性、肩こり、腰痛、ストレス発散・・・・・

 効能はともかく、毎日の好きな入浴がよい習慣となって、それが健康な暮らしにも役立っているということを、時には湯船で思い起こしてください。シャワーで済ませてしまうのではなく、湯船につかる、それが大事なのです。ついでに入浴剤 延寿湯温泉もどうぞ。

<参考文献>

(1) 安保徹:体温免疫力、ナツメ社(2004年)
(2) 菅原務、畑中正一:がん・免疫と温熱療法、岩波書店(2003年)