化粧石鹸の形状
化粧石鹸といえば通常は固形です。しかし、シャンプー、台所用洗剤は液体、洗濯用洗剤は粉末と、目的は同じ洗うでも、それぞれ商品の形態は異なります。
水で洗うという立場で考えますと、一番効率的なのは液体です。洗剤もしくは石鹸の洗浄効果は水に溶けてはじめて効き目が出るからです。これは医薬品でも同じです。飲み薬には粉薬、錠剤、シロップ剤などがありますが、効き目は体内で水に溶けて、液体で血管に吸収されて発現しますので、通常は水剤、シロップ剤が一番早く効きます。
効率というと、どれもこれも液体にしてしまうのが一番いいのですが、使用の場、便利さを考えたとき、果たして、液体が万能かというと必ずしも、そうとは言えません。さらに、もう一つ大事なことは、化粧石鹸、シャンプー、洗濯用洗剤は、三者ともに組成というか、成り立ちがぜんぜん違うので、製造の立場では、すべてを、液体にしてしまうことは難しいことです。
1.石鹸と洗剤の区別
はじめに、石鹸と洗剤との区別に触れておきます。同じ洗浄を目的としているとはいっても、両者の原料、性質はまったく別です。この違いを理解しておかないと、さきざきわかりにくくなります。
簡単にいえば、石鹸は植物および動物の油脂を原料にしているということです。一方、洗剤は合成の有機薬品で界面活性剤を材料にしております。原料は異なりますが、泡が出て、汚れを落とす機構はほとんど同じです。
たとえば、化粧石鹸である「延寿石鹸」の製造は桶谷石鹸株式会社(大阪市城東区)ですが、製造では釜の中に、牛脂とヤシ油をいれて加熱し、溶かして攪拌し、それに水酸化ナトリウムと水を入れる、というまさに手作りに近い作業にて石鹸は出来上がります。
桶谷さんは五感でチェックしているのは有名です。桶谷さんは、釜焚きでは計器類は一切使わない、血の通った五感のほうが、はるかに信頼できる、だから、釜の温度は指を入れて測る。また、石鹸の素地をなめてみる。水酸化ナトリウムの辛さが、じわーっと舌先に伝わってくる状態が最良です、と言っています。
桶谷さんの作る石鹸には、添加剤とか防腐剤、着色剤、香料など、余分のものが一切入っておりません。それだけに、見た目がやや悪く、香りも天産物の香りだけで、芳香とはいいかねるでしょう。防腐剤も入っていないので、保管方法によっては石鹸に部分的な変色の起こる場合があります。ちょうど、生薬で虫の食わない生薬なんて怖いと、残留農薬を気にされる方がいますが、それと同じかもしれません。
ところが、洗剤というと、合成洗剤という名前のあるごとく、パイプとタンクの化学産業で、人の介在はほどほどに、あっという間に製品は出来てきます。合成洗剤の歴史は、1916年、第一次世界大戦のころ、ドイツでは食料に使われる材料を石鹸にしてしまうのはもったいないということで、食料以外の材料で洗剤を作ることが研究され、石炭を原料とする製品が開発されました。合成洗剤はこうして誕生しました。
アメリカでは石油から洗剤を作る研究がなされ、1950年ごろに商品化が実現しました。この合成洗剤が、今日、私どもの暮らしの中に入ってきております。合成洗剤にはいろいろの種類があり、初期の製品は泡公害を引き起こし環境保全に良くないというので、消えて、今は別の種類の洗剤になっております。参考までに消えていった合成洗剤はABS(アルキルベンゼンスルホン酸塩)タイプで、残っているのがLAS(リニアABS)タイプです。
合成洗剤のシャンプーは高級アルコール系の界面活性剤ですが、洗濯用はアルキルベンゼン系もしくはアルコール系です。
両者の安全性の違いは手許に十分の資料がないので、本欄では省きますが、桶谷石鹸㈱のお話のように、石鹸であれば鼠も食べてゆくほどですが、合成洗剤では、原液をゴキブリにかけると、コロリと参るという話があります。
2.化粧石鹸はなぜ 固形か
このように、化粧石鹸、特に手作りの「延寿石鹸」ではもともと固形の油脂を熱で溶かして、水とアルカリで分離して固形物を作り上げ、これを徐々に乾燥して化粧石鹸が出来上がります。油脂を材料にした石鹸は固形に仕上がるのです。
大メーカーで作られる大部分の化粧石鹸は、この固形物を砕いて、ここに色素や、香料、保湿剤などを加えて十分に練り、型打ちして成型し、仕上げます。固形の形は球であろうと、長方形であろうと、あるいは文字の刻印など、型で押し付けますので自由自在です。ただし、手作りの延寿石鹸は手間がかかりすぎるので、成型の方押しはしておりません。
タオルでごしごしと体を洗うには固形の石鹸は頼りになる形状です。つるりと滑って手許から逃げてゆくのも化粧石鹸独特のユーモアでしょう。洗面所で手を洗う、顔を洗うのも、簡単に石鹸が取り出せて、手軽に適量を使うことができます。
固形の化粧石鹸は置いておくだけで、あたりに芳香を漂わせます。
化粧石鹸というのは本来は、固形に適した状態で生まれてきますが、最近はボデイシャンプーというのが、液体で出回っておりますし、一方、手指の消毒石鹸も液になっていて、1プッシュのボタンで適量が出てきます。これらはすべてが天然素材とは限りません。中には合成洗剤のものもありますので、延寿石鹸と同様に考えるわけにはゆきません。石鹸か、洗剤かは、表示ではっきり区別していますのでご覧ください。
3.洗濯用洗剤と台所用洗剤
洗濯用洗剤と台所用洗剤は洗剤です。上述のように石鹸と合成洗剤とは名称がはっきり分けられて、区別されております。たとえがやや外れるかもしれませんが、人工甘味剤と砂糖の違いぐらいに思ってください。甘みをつけるという同じ目的でも、両者は大いに異なります。ここでいう合成洗剤は人工甘味剤で、砂糖が化粧石鹸です。人工甘味剤は少量で、よく効き大変効率的です。
合成洗剤の主成分は界面活性剤のLASですが、その中には電気洗濯機用の洗剤と台所用とがあります。主成分は同じですが、それぞれ用途に応じて使いやすいように薬品が添加されており、洗濯用は粉末に、台所用は液体になっております。もちろん例外はあり、洗濯用にも液体の洗剤は販売されております。
たとえば、台所用洗剤は常に液が手につくため、手に刺激を与えないような薬品が添加されておりますが、洗濯機用では、通常は洗剤が手には触れないのでそのような配慮はありません。また、泡の出方にしても、手で洗う洗剤は十分泡立ちよくしておりますが、食器洗い機用の洗剤は泡を極力抑えております。
台所用洗剤は、使うときはスポンジに数滴つけて簡単に拭いて水に流せるようにしておりますので、液体が便利です。
洗濯用になりますと、たくさんの水で十分攪拌しますので、すぐ溶けることよりも、取り扱いの便利さが先行して粉末なっております。
洗濯用洗剤と台所用洗剤は洗剤と断わりましたが、天然素剤の石鹸を好む人がいるため、石鹸による洗濯用石鹸と、台所用石鹸はわずかですが市販はされております。
4.シャンプーは液体
シャンプーというのは毛髪の汚れを取り除くのが主たる役目です。シャンプーのように直接、皮膚と接触する時間の長い洗剤は、とくに刺激性、安全性が配慮されております。そして、毛髪という特殊な対象にどのように洗浄効果をあげてゆくかが、決め手になります。現在のシャンプーの主成分は合成洗剤で、界面活性剤が使われております。
皮膚への刺激という点では、はるかに天然素材から作る石鹸が有利ですので、わざわざ、化粧石鹸をシャンプー代わりに、あるいは石鹸を粉末や液体にして販売している場合もあります。しかし、天然素材の化粧石鹸は通常はアルカリ性ですので、毛髪には必ずしも適しておりません。終わったあとにアルカリをなくすためによく水で流す必要があります。
液体の合成洗剤のシャンプーには皮膚を守る材料、摩擦によって毛髪を傷めないようにする材料、毛髪をしなやかにする保湿剤、香料などいろいろの薬品が配合されております。そういう薬品を均等に配合して商品化するには液体は便利です。しかも、ボタンを押せば、1回分の少量の液が、簡単に出る容器に入っております。
石鹸・洗剤の形状というのは、本来の製造の過程によるところが大きいのですが、最近の商品の市場では、メーカーが気にしているのは、お客さんの使いやすさを如何に商品に反映してゆくかにあり、これが最終的に商品の形状を決めているといいうるでしょう。
参考までに、本文では形状という用語を使いましたが、医薬品の場合ですと、この形状を「剤形」と呼んで、薬学では学問の一分野になっております。最新の日本薬局方では医薬品の剤形は29種並んでおります。