樟脳は延寿湯温泉に配合されております。

樟脳=カンフルの配合されている入浴剤とは ユニークではありませんか。

樟脳=カンフルとは一体何でしょうか。どのようにユニークなのでしょうか。

入浴剤での樟脳=カンフルの働きは何でしょうか。 

「カンフルを注射する」とは日常よく使われる言葉です。これは「普通の手段ではどうにもならなくなった物事を回復させる非常手段」であると、広辞苑に出ております。

 延寿湯温泉のカンフルはさほどではありませんが、入浴剤に配合されているということは、痛んだ心身の疲れを癒すのにはまことに有効な手段なのです。

 カンフル注射剤という医薬品は、かつては強心剤として重症の心不全、心衰弱臓疾患に用いられ、まさに上述のような効能が期待され、繁用されておりました。

 樟脳はカンフルとも言われ、局方名もこのカンフルを使っております。厳密に言いますと、強心剤として使われていたカンフルは樟脳そのものではなく、樟脳の代謝物から生まれた医薬品です。また、延寿湯温泉に配合されている樟脳は、これも厳密に言いますと樟脳油という油性液剤です。樟脳油には約50%の樟脳=カンフルが含まれていますので、本文では、延寿湯温泉の成分を樟脳として扱います。

樟脳の生い立ち

 樟脳は本来はクスノキに含まれている精油成分で、水蒸気蒸留して樟脳油から結晶として得られるものをいいます。

クスノキは日本人には古来なじみ深い樹木で、温暖な地ではどこにでもあり、街路樹として、巨木として社寺に、あるいはしめ縄で飾り大事にされている所もあります。

 樟脳は江戸時代から明治にかけて、日本の特産物であり、国策上、極めて重要な産物・貿易品として扱われていました。そのため、樟脳は1906年から専売品となり、国の統制下で原料取引がなされ、1962年には生産の減少により専売制は廃止されました。

 1960年ごろから、天然樟脳、いわゆるクスノキから水蒸気蒸留して結晶を取り出す製法はクスノキの乱伐を招くため、天然資源の保護、および採算面から、合成法による製品に切り替わってゆきました。局方収載品でいえば、天然のd-カンフルが、合成のdl-カンフルに代わっていったのです。

医薬品としての樟脳

 樟脳は薬としては中国では紀元前から、欧州では6世紀頃から使われており、わが国でも江戸時代以前から用いられております。日本薬局方には第一版から、現在の十四局にいたるまでずっと収載されております。冒頭にあげました強心剤の注射用は、樟脳そのものではないので別ですが、樟脳は通常は外用剤として用いられ、今日も一般用医薬品等に広く使用されております。

 樟脳には局所刺激作用、局所麻酔作用、および鎮痛作用があります。これらの作用によって、皮膚の消炎、血行改善、鎮痛を目的として皮膚外用剤に使われております。皮膚粘膜からの吸収は良好ですので、一般用製剤の虫さされ、かゆみ止め、皮膚炎治療剤、肩こり、筋肉痛治療剤の多くに樟脳=カンフルが配合されております。たとえば、商品名をあげれば龍角散のタイガーバームには24.9%、ロート製薬のメンソレータムには9.60%と、それぞれ主薬として配合されております。

 また、樟脳特有の清涼感が、賦香の目的で使われることもあります。

 医薬品ではありませんが、樟脳の防虫作用は歴史的に実績があり、今日も高価な衣服には防虫剤として用いられております。樟脳の防虫作用の記事は中国の本草綱目(1596年刊)に出ております。

入浴剤としての樟脳の働き

 数ある入浴剤のなかで樟脳の配合されているのは珍しいでしょう。これが延寿湯温泉の特徴でもあるのです。

 医薬品のところで取り上げたように、入浴剤としての樟脳は皮膚吸収もいいので、局所刺激作用、局所麻酔作用、および鎮痛作用が発揮されて、皮膚の消炎、血行改善、かゆみ止め、肩こり、筋肉痛治療など多方面に効果を期待できます。

 もう一つ、入浴剤で重要な働きは樟脳の香りです。樟脳の香りには特有の奥ゆかしさがあり、どちらかといえばオリエンタル調の香りですが、心をやすめ、ストレス消散にアロマテラピー効果を発揮します。ただし、延寿湯温泉の香りは、樟脳だけではなく龍脳はじめウイキョウ、チョウジほか他の生薬成分も加わって、すぐれたアロマテラピーの役目を果たします。延寿湯温泉の香りにつきましては後に改めて情報をお届いたします。

クスノキ物語

 日本で一番大きな樹木といえば、九州鹿児島県の蒲生の大楠です。蒲生町八幡神社にあって、幹の回り2422cmで国の天然記念物に指定されております。ちなみに、日本の巨木ベストテンのうち、9本がクスノキです。延寿湯温泉の製造地、大阪府の巨木ナンバーワンもやはりクスノキで、門真市三島神社に元気に茂っております。

 クスノキは巨大になることから、古代では舟の材料として使われ日本書紀にも出て来ます。奈良天平時代には仏像彫刻にも使われ、奈良中宮寺、京都広隆寺の半跏思惟像はいずれもクスノキの仏像です。クスノキは木目もきれいであり、さらに香りがいいこと、防虫効果があることなどにより、今日も彫刻はもとより、内装材や家具などに使われております。このように日本を代表する樹木クスノキと延寿湯温泉とは深いつながりがあるのです。

<参考書>

第十四改正日本薬局方解説書、広川書店(2001)

日本の巨樹・巨木林、環境庁編 (1991年)