入浴で体内の有害物質を流す

 風呂につかって汗を流すことは入浴の役割で見逃せない効果の一つです。

 なぜ風呂に入るのかといえば、すなわち、入浴の目的となりますが、それにはストレス発散、身体を温める、身体をきれいにする・・・・・いろいろ並びます。その中でも今回は冒頭に挙げた風呂につかって汗を流すことについて、どういう効果が期待できるか考えてみましょう。

入浴と発汗

 同じ水というか湯の中の出来事ですので、風呂に入って一体、どれだけ、どのように汗が出ているのか、これはなかなか分かりにくいことです。これが、サウナや岩盤浴であれば、湯そのものは使いませんので、汗が出ているということは明らかにわかります。

 入浴の際、実際にはかなりの汗が出て、相当量の水分が失われます。したがって、高齢者は入浴前後に大量の水分補給が求められ、同様に幼児、赤ちゃんについても同じことがいわれております。

 現実には、大量の汗が出ていることを確認する一つの方法は、湯につからない部分、たとえが頭や顔の発汗が一つの目安になりますが、目安の域を出ません。

 入浴でさっぱり汗を流すのはストレス解消に大いに役立ち、入浴の洗浄効果よりも、このストレス発散を入浴の効用第一に挙げる人もいるほどです。

汗で流れるもの

 発汗で排出されるものでは一番多いのが、塩分NaClです。夏の暑いとき、たっぷり汗をかくと、身体の表面や衣服にざらざらと塩の結晶の析出するのを経験することがあります。夏の運動したときには1日に10リットルの汗の出るときがありますが、このときの塩分は50~100g近くにまで及ぶときあります。

 汗で排出される次に多いのが尿素、アンモニアのたぐいです。

 アルコールは量的には多くはないのですが、汗に混じって排泄されます。また、肺の中にも入りますので、吐く息は酒臭くなります。これらは臭いによって明らかに分かるために、排出されていることに気がつきやすいようです。しかし、ミネラルのようなもの、体内の有害金属の量は、通常の健康人では汗の排出物としてはデータに挙がってきませんので、難しいところです。

有害物質の排出

 体内に摂取された有害物といえば重金属以外に、化学物質、あるいは医薬品なども治療目的以外には量的には限られていますが、有害化合物になる場合があります。もちろん、もともと有害物質である麻薬や覚せい剤は、習慣性や蓄積する性質もあって、中毒の可能性が高くなります。

 通常、このような体内に摂取された有害物あるいは代謝老廃物は消化器官によって排泄される場合がほとんどです。

 化学物質のような有害化合物は肝臓による代謝によって、構造が変えられたり、あるいは他の物質がくっついたり、取り囲んで無毒状態にして排出されることがあります。食中毒などでは、有毒物質、腐敗物などが胃に入った段階で、それ以上の侵入を許さないため、嘔吐という形で排出させることがあります。薬物中毒あるいは好ましくない薬物の服用や誤嚥では、強制的に吐かせる場合があります。

岩盤浴とサウナで汗を出す

 岩盤浴(がんばんよく)というのは、今や、都会の各地に専門の店が進出し、あちこちでみかけるようになりました。特に、女性を中心に利用者が増えているようです。温めた石、岩石でつくったベッドに横になり、汗を発散させます。乾燥した、水を使わない方式ですので、厳密には入浴とはいわないのでしょうが、温かいベッドに横たわることを入浴といっているようです。この状態で30分ぐらい寝転びますので、たっぷり汗をかきます。汗を大量に出させるのが、この岩盤浴の目的です。岩盤浴の歴史は中国では数千年以前から、温かい岩石を抱いて体を温める健康法があったといいます。

 一方、サウナ風呂というのも歴史は古く、北欧フィンランドが発祥の地で、2000年の昔にさかのぼります。もともとは白樺の木をどんどん燃やして、それに水をかけて大量の水蒸気を発生させたといいます。密閉した中で高温の水蒸気に包まれ、ここで十分の汗を流すことになります。このサウナでは、白樺の木に独特のつながりがあって、白樺が燃えたときに出す油を「森の精」といって、白樺の精油薬効、たとえば鎮静作用とか、あるいは新陳代謝を盛んにするとか、いわれております。もともとの北欧フィンランドのサウナは、水蒸気による発汗作用だけの効果ではないのです。今日のわが国のサウナでは、乾いた熱気、遠赤外線によるものなど乾式のものがありますので、一概にサウナを湿式であるとは言えないようです。いずれにしても、共通するのは大量の汗をかくことです。

 岩盤浴、サウナはともに大量の汗を出させることを目的としております。発汗によるストレス解消以外に、身体の中にたまった有害金属の排泄に役立ち、あわせてダイエットにも効果があると宣伝されているようです。

発汗の促進と抑制

 汗を出すことの本来の目的は、体表面から水を蒸発させて、体温を下げることにあります。水は蒸発するときに大量の熱を奪うので、周りの温度は下がります。都会では夏に打ち水することが最近流行っていますが、この効果とまったく同じこと、焼けた道路が冷えるだけではなく、気化熱によって道路近辺の気温は下がります。

 また、大量の汗をかくことは、それだけ体内の代謝を盛んにしてエネルギーも消費されますので、運動したときのような効果が期待できます。また、身体の温度を高めることは、免疫力も高まります。免疫力が高い温度で高まるということは、最近、特に強調され、ガンの温熱療法、ハイパーサーミアに結びつきます。

 体内の有害金属、あるいは有害ミネラルとしては、たとえば、カドミウム、水銀、鉛、ヒ素、ベリリウムなどをいいますが、これらの排泄を、最近はデットクス(解毒)と呼んで、医学的にも重視されるようになってきました。有害金属が健康に及ぼす影響については、かつての大きな公害事件、カドミウムは新潟、富山のイタイイタイ病で、あるいは水銀では水俣病で、十分ご存知のことと思います。たとえば、水銀ですと、身体に及ぼす影響として、腎臓・肝臓障害、難聴、感覚障害、平衡機能障害、運動失調、言語障害、四肢のしびれ、頭痛、下痢、食欲不振ほか、が挙げられております。

 これらの有害金属を体外に排出する一つの方法に発汗があります。もちろん、発汗がすべてではありません。排出には薬物、食事療法ほかがあります。

漢方における発汗 漢方の基礎

 中医学(今日の中国の漢方中心医療)では、発汗作用というものが重視されており、漢方の基礎的な治療法の一つになっています。発汗作用を解表(げひょう)と呼んでおり、体内の有害物質、不要物を外部に発散させることをいいます。厳密に言えば、ここで排除すべき対象を邪(じゃ)といい、適正な生理活動を阻害する外部の環境、異物などが体内に影響を与えることを、漢方では邪の働きによると解釈する場合が多く、この邪をどのように排泄するかが治療のひとつの方策となります。これらの治療手段を解表といい、具体的には発汗と解肌(げき)とがあります。発汗と解肌とはほとんど同じで、ともに感染症の治療に使われますが、汗を出させる作用を目的としております。

 要するに汗とともに体内の黴菌や有毒物、不用品を外に排出することによって治療効果を挙げようとするものです。発汗は薬物によって行われますが、参考までに、発汗に用いられる生薬にはマオウ、ケイシ、シソヨウ、ケイガイ、ショウキョウほか、があります。

<参考文献>

真島英信:生理学、文光堂(1986)
田多井吉之助:健康歳時記、有斐閣(1979)
中山医学院編:漢薬の臨床応用、医歯薬出版㈱(1979)