血圧の話

1.血圧とは何か

 血圧の単位はmmHg(ミリメートルエイチジー、Hgは水銀ということ)です。これは血液の持っている圧力を現しております。血圧の数値は通常は120/70mmHgですが、1気圧は760mmHgですので、血圧は1気圧の約1/10程度の押す力を持っていることを示しております。1気圧というのは、縦長の容器に水銀を76cm入れたときの容器の底の生じる圧力です。血圧の70mmHgの場合は7cm分の水銀の圧力になります。

 血圧とは動脈の壁に対する血液の圧力をいいます。

 血液は心臓というポンプの働きで体内を循環しております。ポンプの中で静かに血液が流れているのではなく、心臓ではドッキン、ドッキンという音が出ていることはお気づきのことでしょう。これは血流が激しい力で心臓の弁に衝突する音で、僧坊弁に当たる音がドツで第一心音といい、大動脈弁に当たる音が第二心音でドッキンのキンに当たる音です。心臓の収縮は1回で約70mlの血液が押し出されます。1分間に約70回心拍数(脈拍)があるとすれば、1分間に体に送り出される血液の総量は70mlx70=4,900mlとなります。この数字は、成人の平均的な血液総量に近いので、結局、人間が安静にしていると、血液は1分間で体内を1周してきていることになります。

 血液は、細い血管という管の中を通り、体の隅々まで短い時間に1周してくるのですから、かなり強い圧力を有していることになります。見方を変えれば、それだけの圧力を持っていないと、体内循環、すなわち血の巡りは満足に出来ないことになります。

2.血圧の上がり下がりと標準値

 成人の血圧は、先に120/70mmHgであると述べましたが、この血圧の数字は人さまざまであり、また、状況によっても数字は変動します。男女差もあります。

 しかも、血圧には心臓というポンプが縮んだり、拡がったりして、血液を送り出すため、その時、その時で血圧は変わり、心室の収縮しているときを「上の血圧」、すなわち収縮期血圧といい、心室の拡張しているときを「下の血圧」である拡張期血圧といって、通常はこの両者を測定して血圧の高、低を判断します。

 血圧の変動は、たとえば、「白衣高血圧」といわれる高めの血圧があるのですが、これは患者が外来で受診するときに、医師、看護師の前で精神的に緊張するために上昇することをいいます。そのときは「上の血圧」では約20mmHgも上がります。このほかに、一日の生活のサイクルによって変動し、午前10時から午後3時までは、血圧がもっとも低くなる時間帯です。この時間帯に診察を受けることが多いので診療所での血圧は低めに出ることがあります。このように変動があるため、平均的な血圧が知りたい場合には、起床1時間以内に測定した数字と、就寝前に測定した値とを足して2で割った数字を標準的な値として、取り扱う場合が多いようです。

 成人の標準的な血圧は、収縮期の「上の血圧」が135mmHg以下、拡張期の「下の血圧」が80mmHg以下をいいます。

3.血圧が高いということ

 先ほどの測定値で、高い血圧値が恒常的にあれば、高血圧症という疾患として治療が求められます。高血圧症は生活習慣病の一つであり、寝たきりや痴呆の原因である脳血管障害につながりますので、予防と改善にはとくに関心が集まっております。脳血管障害に起因する寝たきりとか痴呆の患者数は、日本は世界一です。

 高血圧症の場合は、その程度に応じて服薬して、あるいは生活習慣の改善で、血圧を下げます。高血圧とはどういう血圧の数値をいうのか、最近のわが国のデータでは収縮期の「上の血圧」が160mmHg以上、拡張期の「下の血圧」が95mmHg以上をいいます。この数字は出所により、また時期により時々変わり、常に一定とはかぎりません。

 WHOと国際高血圧学会のデータですが、治療域と服薬必要域とを次のように分けております。

 生活習慣で高血圧を改善できる範囲は収縮期の「上の血圧」が140~160mmHg、拡張期の「下の血圧」が90~100mmHgをいい、

 薬の服用が必要なのは    収縮期の「上の血圧」が160mmHg以上、拡張期の「下の血圧」が100mmHg以上をいいます。 生活習慣の改善というのは、肥満を防ぐことであり、そのために運動が進められ、又食事では飽和脂質、砂糖、食塩の制限、食物繊維の摂取増加などがあげられます。実際に改善を試みようという方は、この分野ではたくさんの生活改善指導の書物・文献が出ておりますので、それらをご参照下さい。

4.生活習慣病と高血圧

 高血圧の患者は、生活習慣病の中でも際立って多く、最近では800万人近くになっており、2番目に多い精神障害を倍以上引き離しております。この高血圧患者の多いのが、半身不随や、脳血管性痴呆の激増を招いております。

 高血圧症で注意しなければならないのは、自覚症状のないことです。通常は、測定しないと気づきませんので、血圧の高い家系の人は普段から、家庭での血圧測定を試みるか、健康診断、人間ドックなどで、監視しておく必要があります。

 高血圧症を防止するため成人を対象とした啓蒙活動が国の施策として、たとえば「健康日本21」、さまざまのキャンペーンの形で展開されております。

 開業医、病院も参画していますので、広くPRが行き届き、治療、予防の知識は広く成人の間に普及しております。ここでは深入りは避けておきます。

5.入浴と血圧

 生活習慣病の予防全般ではできるだけ休養をとり、ストレスを発散させることが重視されております。これは、ご承知のように、たびたび本紙で取り上げてきている入浴の効果そのものでもあります。入浴剤「延寿湯温泉」は、それをバックアップしております。

 入浴には素晴らしい健康へのメリットがある反面、特定の人には要注意になる場合があります。特に冬の周りの寒い環境下では、急激な血管収縮による血圧上昇を招きますので、温度差の激しい場合には入浴は気をつけねばなりません。循環器系統に支障を持つ人、血圧の高い人、そして高齢者一般の方々には、注意信号が点灯しております。

 温度の感受性は人によって必ずしも一律ではありませんが、通常40度以下のぬるい湯では下半身が温まると血管は拡張して血圧は下がりますが、逆に42度の熱い湯では、血管は収縮して血圧は上昇します。

 この原理を応用して言えることは、血圧の高い人は42度以上の熱い湯には入らないで、ぬる目の湯(40度ぐらい)で10分ぐらい浸かる、のがお奨めのようです。また、血圧上昇に無理のかからない入浴法の一つは半身浴です。全身首まではどっぷりつからないのですが、暖房の効いていない風呂では、ほどほどにしないと、風邪を引きます。

 また、居間、脱衣場、浴場の急激な温度差を避けるため、特に浴場・脱衣場では暖房したり、湯気を立てることが望まれます。外気と室温の場合、温度差は5度以上にならないようにいわれていますが、この数字は室内と風呂場との間にも通じるでしょう。

<文献>

椎貝達夫:腎臓病の話、岩波書店(2007)
香川靖雄:生活習慣病を防ぐ、岩波書店(2000)
国立循環器病センター:循環器病情報サービス