お風呂とメタボリックシンドローム

 健康にかかわる話題では、このところ急にマスコミで取り上げられるようになったのが、メタボリックシンドロームです。この名前は難しくすっきりしませんので、お年寄りの間では「メタボ」と略されていますが、しかし、最近の調査では成人で中味まで知っている人は80%を超えており、残りのほぼ全員が言葉だけは知っていると、回答しています。

 メタボリックシンドロームは、生活習慣病とは深いつながりがあります。生活習慣病は名称のとおり病気の名前ですが、メタボリックシンドロームというのは病気の名前というよりも、本来の意味は将来、生活習慣病になる可能性の高い状態・症状にあるので、健康管理に一層注意するようにという、一種の危険信号の出ている状態をいいます。

 メタボリックシンドロームと入浴と言えば、直接、かかわりがあるとはいえませんが、危険信号を緩和する策の一つとして、お風呂をご利用いただく機会がありますので、ご参考にしていただければと思います。

1.重大な病気の危険信号

 糖尿病、高血圧、がん、脳卒中、心臓病はかつて成人病といわれていたのですが、成人病という名前ですと、歳をとれば誰でもかかる病気と、思われがちであったので、そうではなく、歳をとっても生活の仕方で防止できる病気である、というので、成人病は生活習慣病と変わりました。病気の名前は、世の移り変わりによって変わってきます。

 生活習慣病は国民医療費の大半を占め、さらに成人の健康にも重大な影響を及ぼすので、これらの病気の予防に行政は力を入れて、対象となる成人がもっとこれらの病気について知り、予防に関心を持つようにというので生まれたのがメタボリックシンドロームです。これは、中年以降の人たちへの健康増進のための大きなキャンペーンなのです。

 メタボリックシンドローム(metabolic syndrome)というのは、用語の源はもともと英語で、直訳すれば「代謝の症候群」であり、体内に取り入れた食事がエネルギーや体内の必要な物質に変わってゆく過程における異常な状態であり、現在は日本語としては「内臓脂肪症候群」が、一般に使われております。

 メタボリックシンドロームというと、肥満がすぐ浮かび上がるのですが、この肥満も厳密には「内臓肥満」であって、内臓を取り巻く過剰な脂肪が対象になり、皮下にたまる脂肪とは違います。代謝過程での異常な状態とは、体内で余剰となった成分が脂肪として蓄積され、とくに内臓の脂肪細胞が肥大化した状態をいいます。この肥大化した脂肪細胞が悪玉の物質を分泌して、血圧を上げたり、糖尿病や動脈硬化になりやすくなるために、病気につながってゆきます。

2.肥満と脂肪

 体内の脂肪は、それが存在する場所によって、皮下脂肪、内蔵脂肪に分かれます。体内の脂肪は、通常は男性は体重の25%以下、女性は30%以下であって、それ以上になると肥満ということになります。

 肥満のデータには体格指数(BMI)があって、体重と身長の数字から算出し、25以上を肥満といいますが、実際のメタボリックシンドロームの診断では腹の周り(へそ周り)の数字を基準の一つとして用います。参考までに、男性は85cm以上、女性が90cm以上です。

 メタボリックシンドロームでは先にも述べたように、内蔵脂肪が悪玉として問題にされます。尻や太ももになどにつく脂肪は皮下脂肪であり、とくに女性で話題になりますが、皮下脂肪はホルモンの関係もあって男性よりも女性につき易い性質があります。皮下脂肪はいったんつくと簡単には減らないものですが、ある程度は皮下脂肪が無いと、寒さに耐えられず、また、外部の衝撃から身を守る役目もありますので、減らすのもほどほどにということになります。

 内蔵脂肪は、どちらかといえば男性に蓄積されやすく、内蔵そのもの、腹部の腸の回り、あるいは腸の空間に集まるので、腹が出てきます。尻の大きくなる皮下脂肪型と比べると肥満の形は異なってきます。内蔵脂肪は、皮下脂肪に比べて、脂肪の出入りが容易になっていて、増減は生活の習慣、訓練によってコントロールされます。

 脂肪と言うのは、人間には欠かせない栄養素であって、エネルギー源だけではなく、体内組織でも重要な役目を担っておりますので、脂肪そのものを敵視してはいけません。

3.メタボリックシンドロームを改善する

 糖尿病、高血圧、がん、脳卒中、心臓病の怖さは、ここではいまさら申し上げるまでもないでしょう。メタボリックシンドロームという危険信号は、これらの病気の前段階にあると言うことです。

 メタボリックシンドロームの危険信号を診断する基準は、病院・診療所をはじめ、保健所からも頻繁にPRされており、ご存知のことと思います。本年の4月から、メタボリックシンドロームの検診が制度として実施されることとなり、40歳以上の人には検診・保健指導が行われます。

 保健指導すなわち予防と言うか、生活習慣改善の指導では特に食事と運動、それに休養が強調されます。これらは、それぞれ人によって生活環境が異なるため、診断の結果、生活習慣に応じて指導のポイントは違ってきます。実際には検診の結果に基いて専門家の指導を受けることになりますが、しかし、日日の暮らしの場で予防を心がけることは必要であります。先ほどのPR用ポスターなどにも、あるいは保健所のチラシなどにも、簡単な注意は出ております。

 予防の基本は食生活、運動、休養です。政府機関発行の「生活習慣病のしおり」ではアメリカの大学教授ブレスローの7つの健康習慣を挙げています。

①適正な睡眠時間
②喫煙をしない
③適正体重の維持
④過度の飲酒をしない
⑤定期的に運動する
⑥朝食は毎日食べる
⑦間食をしない

4.暮らしの心がけと入浴

 メタボリックシンドローム悪化を意識する人は、日常生活において生活の習慣を改めることになりますが、さし当たって心がけることになるのは、

①適度の運動と食事に配慮する
②生活にリズムを持たせる

 ことになります。

(1)適度の運動

 成人の多くは次のような項目の実行を挙げていますが、実際には忙しい、時間が無いなどで着実に実行している人は少ないようです。

①1日1万歩——はじめは1日30分、息の弾む程度のスピードで
②運動習慣の継続—–体調にあわせてマイペースで
③階段の上り下り—–エスカレータやエレベータを使わない
④家事労働による労働
⑤日常生活で身体を動かす

(2)食生活の改善

 一方、食事のほうでは、次のようになっておりますが、運動に比べるとこの面での実行は比較的よく行われています。

①腹八分目の食事
②彩り豊かな食事
③減塩
④寝る前2時間以内には食事をしない
⑤週に1回は休肝日
⑥野菜を十分に食べる
⑦朝食は摂る

(3)入浴の役割

 メタボリックシンドロームの予防にはストレス・疲れをとるということが重視され、「健康日本21」のなかにも「健康づくりのための休養指針」が出ております。その中に「生活にリズムを」という項目があって、「入浴で身も心もリフレッシュ」があります。

 「入浴で身も心もリフレッシュ」とは、風呂場がこの目的には格好の場所になりましょう。ここに、入浴剤 延寿湯温泉を加えれば、程よい香りが心身に一層の和らぎを与えてくれます。

 また、毎日とはいわなくても、自分の体の健康状態を確実に把握しておくことは重要です。入浴の際には、体重を測定したり、へそ周りを測ったりして、日日の健康状態を管理します。銭湯でも、温泉でも脱衣場には必ず体重測定のための秤が設置されております。家庭の風呂脱衣場にも、ぜひ体重計と巻尺を備えて、身体の健康状態管理を行ってください。

 風呂場は自らの健康状態を観察するにはもっとも適切な場所であります。

<参考書>

藤田敏郎:知らないと怖い高血圧、平凡社、東京(2007)
生活習慣病予防研究会編:2000生活習慣病のしおり、㈱社会保険出版社、東京(2000)
香川靖雄:生活習慣病を防ぐ、岩波書店、東京(2000)