夏場の皮膚のいたわり ――日焼けと紫外線

 夏休みの終わったあと、子供たちの真っ黒に日焼けした姿が、かつては野外活動に活発な子供の健康の象徴でもありましたが、最近では紫外線照射に無防備であるという見地から、必ずしもお奨めできる姿にはなっていないようです。

 このところ、紫外線をいかに遮るかということが結構話題になっており、それに関連した商品も増加してきております。

 紫外線が、結構、悪者扱いされていること、さらに、世の中、原油高のために、車で冷房して出かけるのが、やや厳しくなりつつあるせいでしょうか、紫外線防止の関心は高まっております。

 入浴剤と石鹸は、清潔で健康な皮膚を守るために、欠かせませんが、紫外線防御には直接の関係はありません。健康な皮膚を守るという立場で、今回の中味をご覧いただければと、思います。

1.日焼けするのは皮膚を紫外線から守るため ――紫外線の皮膚への影響

 今日では、日焼けして真っ黒になるというのを、健康的であるとはいいません。日焼けするというのは、紫外線による皮膚への影響を少しでも減らすための一種の皮膚の防衛反応であります。

 紫外線に当たって日焼けするとなぜ、皮膚は黒くなるのかということは、まだ最終的な答えは出ていないのですが、かなり絞られてきてはいるようです。皮膚の色を決めているのはメラノサイトという細胞の一種で、メラノサイトは、紫外線の照射から守るために、メラニン色素をつくります。メラニンという用語はギリシヤ語の「黒」という言葉から来ておりますが、通常は黒い色素であり、黒人の皮膚にはこの色素が多いのであり、日焼けの肌にもメラニン色素は増加します。元来、メラニン色素は、紫外線のように皮膚の細胞を破壊する外部の悪者から、守るためにあるものです。皮膚の細胞を破壊するとは、DNAの破壊であり、放射線照射の場合と同様な現象で、程度によっては発ガンにつながります。本来のヒトの生命安全のために、日光の強い地域では、黒人の肌のようにメラニン色素を増やして皮膚を守らないと、皮膚ガンになることがあり、東洋系にくらべ、メラニン色素の少ない白人はしばしば、皮膚ガンに冒されます。

 日焼けで皮膚が黒くなるのは、紫外線が皮膚を黒くするのではなく、細胞を紫外線によって破壊されないよう、すなわち、ガンにならないように、メラニン色素が必死になって皮膚を紫外線から守ってくれている結果であり、決して健康な状態ではないということを認識しないといけません。

 日焼けというのは、厳密には2種類あって、欧米ではサンバーンとサンタンに分けています。サンバーンというのは、ちょっと日に当たると皮膚が赤くなって、風呂にでも入るとひりひり痛い状態です。これは2,3日で治まります。ところが、サンタンというのは、冒頭にあげた俗に言うクロンボ大会の皮膚で、痛みの伴わない長く続く皮膚の黒い状態です。サンタンは皮膚にメラニン色素の沈着した場合ですので、簡単に色は消えません。

2.紫外線とは何か

 紫外線は(UV=Ultra Violet)とも呼ばれ、マスコミではUV(ユーブイ)のほうが一般的なのか、よく使われます。紫外線はヒトの目では見えない光線の一つです。ヒトの目と断わったのは、昆虫であれば、たとえばモンシロチョウであれば紫外線は見えるからです。

 日光をプリズムに通すと七色に分かれて、いわゆる虹の七色ができます。その端は紫と赤色で、紫の色の外側に紫外線は位置します。紫外線ランプというと微生物の殺菌用に使われていることからも分かるように、強力な細胞破壊力を持っております。

 紫外線は太陽光の一つですので性質は、太陽光に従います。日陰に入れば紫外線は減り、部屋の中では外の10%ぐらいになります。また、太陽が直射ではなく、うす雲があれば、減ります。また、太陽に近くなると、量は増加し、標高1000mについて10~20%増加してゆきます。登山や、高原ではご注意ください。また、光ですから反射もします。新雪では80%反射するというので、スキーをするときにはサングラスをかけます。雪ばかりではなく、舗装道路や水面でも反射して目に入ってきます。

 紫外線は太陽との距離が短くなるほど照射は大きく、季節では日本の場合、6月~8月に最大となり、1日のうちでは正午前後がもっとも大きくなります。

 地球の上空はるかかなたにオゾン層というのがあって、オゾン層は紫外線が直接降り注ぐのを防いでおります。ヒトを始め地球の生物にとっては大事な大事なオゾン層なのですが、この層はフロンガスによって冒されて、穴が開いてしまいます。穴があくと、そこから紫外線が流れ込み地球にやってきます。スプレイやエアコンに使われていたフロンガスは、このオゾン層を破壊する作用があるために、今では世界各地で使用禁止になっております。

3.紫外線照射で受ける被害

 紫外線の照射による被害では、生活面であるいは生態系、農業生産など、いろんな分野で悪影響が出てきます。たとえば、医薬品の保存管理でも「遮光して涼しい場所に保管」とか「直射日光には当てないようにしてください」など注意事項が表示されております。

 医薬品の光への影響は、そのほとんどが紫外線による中味の化学変化(劣化)を心配しているからです。

 健康への被害は少なくありません。先にも書きましたが、被害を受けてからの治療よりも予防が大事です。しかし、不幸にして紫外線を浴びすぎたきには、主として皮膚と目に悪い疾患が出てきます。紫外線に関係する病気は軽いものばかりとはいえません。

 このような疾患に移行したときは早めに専門の医師の治療を受けることになります。

 健康への被害では、環境省の報告では、次のように急性と慢性にわけて疾患を挙げております。

急性:日焼け(サンバーン)、雪目、免疫機能低下
慢性:皮膚の場合
   しわ、しみ(老人斑)、良性腫瘍、前がん症状、皮膚がん
慢性:目の場合
   白内障、翼状片(眼疾患の一つ)

 マイナスばかり挙げましたが、プラス面ではビタミンDの産生を促し、骨の発育にいいといわれています。日照に乏しい地域によっては、骨の発育異常があり、小児のくる病というのが以前、問題になっていましたが、ビタミンDも普及し、最近では激減しているようです。

4.紫外線照射から守る方法

 紫外線は光の一種ですから、光線を避けると同じようにすればいいのです。目を保護する場合、真っ暗にはできませんので、サングラスあるいはUVカットの眼鏡を使うと、目は保護されます。また、日傘でも、日光は遮断はしますが、UVカットの布地によるものが、紫外線には一層効果的です。

 以前は赤ちゃんの日光浴が推奨されていましたが、今では、デリケートな赤ちゃんの皮膚を紫外線から守るために、日傘のなかで、全身を薄着で包んで、直射日光に曝すことのないようにして外気浴させるようにと改められております。

 日焼けしてから、治療するのではなく、紫外線には当たらないように、防止に努めるのが肝心であり、環境省では次のような対策を推奨しております。

①外へ出かけるときには紫外線の強い時間帯を避ける
②日陰を利用する。ただし、日陰でも、散乱してくる紫外線はありますので、ゼロではありません。
③日傘を使う、帽子をかぶる。帽子はつばの広いのがお奨めです。
④衣服で覆う。首や腕、肩などの保護を考えて体を覆う部分の多い、木綿製品がいいようです。
⑤サングラスをかける。紫外線防止効果の性能のはっきりしたものが必要です。
 色の濃いサングラスは瞳孔が大きく開くので、UVカット効果が小さいとかえって紫外線の被害は大きくなりますので要注意です。
⑥日焼け止めクリームを上手に使う。
 気象庁ではインターネットで毎日、全国の紫外線量の情報を発表しており、このデータを読めば、紫外線が多いのか少ないのかが分かります。どうぞ予防にご利用ください。

 化粧石鹸の延寿石鹸は、薬用ではありませんので治療というよりも、化学薬品無添加の刺激が少ないという特徴を生かして、日焼けの起きた皮膚をいたわりつつご使用いただければと思います。

<参考文献>

田上八朗:皮膚の医学、中央公論新社(1999年)
環境省:紫外線保健指導マニュアル 2006年版
気象庁:紫外線に関するミニ知識(ホームページ)