暑い夏 入浴で快眠・元気を回復

 「熱中症ハイペースにご用心」(2008.7.28 朝日新聞)。今年の夏は暑さが厳しいせいか、熱中症が異常に多いと報道されております。熱中症の予防には、暑い日差しを避けて、水分をこまめに補給することですが、もう一つ大事なことは、十分の睡眠をとって体調を整えておくことです。

 暑い夏の夜、とかく睡眠不足になりがちです。イライラもたまってきます。

 お風呂に入って汗を流し、気分爽快。ストレスを吹き飛ばして、ぐっすり眠る。これが入浴による元気回復のコースです。入浴と睡眠の関係を本号では特集いたしますが、時節柄、はじめに熱中症に触れておきます。

1.睡眠不足と熱中症

 このところ、特に多い熱中症の予防のことを取り上げますが、熱中症と入浴とは直接の関係はありません。先程の朝日新聞の記事では、予防にはとにかく水の補給と十分の睡眠が予防には欠かせないと書いてあります。

 連日、報道される新聞・テレビでは、熱中症のニュースは日中の最高気温に関連して気温が37,38度と高い地域に話題が集まります。

 熱中症は、ちょうど今頃のような気温・湿度の高い夏場において、風も弱く、日差しのきつい場所で発生しやすいのです。そういう環境の中にあって、もう一つの要因として挙げられるのが、体調の影響です。激しく身体を動かして熱の産生されやすい状態において、暑い環境に十分対応できるような体調になっていないと、熱中症を引き起こしやすくなります。熱中症とは熱に中(あた)ることで、体温調節機能が働かず、程度に応じて失神したり、痙攣起こしたりします。

 熱中症では、体調のほかに、特定の疾患にあって、体温調節がうまく出来ない人、たとえば、心疾患、糖尿病、精神神経疾患、皮膚疾患のある場合には、引き起こす確率が高くなることがあります。また、疾患とはいわなくとも、高齢者や肥満傾向の人、普段余り運動していない人などは要注意です。

 環境省では、熱中症にならないように、日常生活では次の点に注意するよう呼びかけております。

①暑さを避けましょう——日陰、日傘、帽子など
②服装にも工夫しましょう ——吸水性にすぐれた下着
③こまめに水を補給しましょう ——水やお茶でいいのですが、ビールは駄目
④急に暑くなる日に注意しましょう ——上手に汗をかくことができるように
⑤個人の条件を考慮しましょう ——朝食は食べる、寝不足ではないこと、激しく動いた後には体温を効果的に下げる、安静・昼寝など
⑥集団活動の場では お互いに配慮しましょう——-皆が夢中にならないで監督者がいる

 なお、熱中症の応急手当の一つに、患者に水をかけて冷やしたり、水風呂に入れることなどがありますが、生命に直接かかわことでもありますので、詳細は専門書におまかせいたします。

2.快い睡眠で睡眠不足を解消

 暑い夏を快適に過ごすには、なによりも快眠、ぐっすり眠ることが大事です。しかし、分かっていても容易に眠気はやってきてくれません。だれも快眠は願っているものの、簡単に出来るものではありません。

 それは一つには、心がけというか、日常の生活習慣にもかかわりがあり、快眠のための準備、実践には努力が要るからです。

 大阪大学保健センターの足立先生は日経新聞(2008.7.29)にて、快眠のために実行すべき生活習慣をつぎのように列記されています。全部で13項目ありますので、ここでは簡略にして、引用いたします。

 先生はセミナーなどで、参加者にこの13項目の快眠の実践を推奨されているのですが、確実に実行して習慣の改善をされている方の効果は大きい、と説明されておられます。

 快眠にお悩みの方には13か条の実践を、ぜひお奨めします。

①毎日同じ時刻に起床する
②自分に必要な睡眠時間を見つける
③午前中に十分明るい光を浴びる
④昼寝(午後3時までに30分以内)を有効活用する
⑤適度の運動を毎日する
⑥就寝直前まで仕事、勉強をしない
⑦夕方以降カフェイン類、たばこは控える
⑧就寝時にくよくよ考え事をしない
⑨就眠直前に熱い風呂には入らない
⑩寝酒はしない
⑪寝る環境を整える
⑫無理に寝ようとしない
⑬眠れないときに、時計を見過ぎない

3.快眠と入浴

 ここで、特に強調したかったのは、快く眠るための入浴の方法です。

 入眠の工夫の基本は体温を上げることにあると、『快適睡眠のすすめ』(岩波新書)の著者 堀忠雄さんは強調されています。寝つきが良くなるということは体温が下がってゆくときであり、逆に体温が上がってゆくときにはなかなか寝付けないといいます。赤ちゃんが寝る前に手足の温かくなるのは、血液を体の表面にまわして、脳の奥の温度を下げているためだそうです。

 これは、大人では簡単には出来ません。というのは、大人の場合、睡眠に悩むようになると、どうしてもストレスがたまってきて、血管は収縮して末梢の血流は流れが悪くなります。赤ちゃんの場合とは逆で、体表面は冷えてきております。したがって、大人では、寝る前に体温を上げておいて、次第に熱の下がる過程を利用して、眠りつけようということになります。

 体温を上げる手っ取り早い方法が入浴です。風呂に入ると、体の表面から温度は上がってきますので、表面の血流は良くなり、内部の血液は外に向かって流れてきます。

 ここで、熱い湯に入ることは厳禁です。先の快眠13か条にもありました。熱い湯は交感神経を興奮させますので、眠れるどころではありません。ぬる目の湯に入ると、副交感神経が興奮しますので、心は穏やかになってきます。内部の血液を体の表面に向けて循環させて、放熱します。

 入浴後10~15分ぐらいで汗を引かせ、体温が下がってくるころに横になると、眠りに入りやすくなる状態になります。もっとも、このあたりの時間、ころあいは季節によっても、個人によっても、かなり事情は異なってきますので、最適の方法を見つけることが求められます。

 風呂に入るタイミングは寝る前か、そのずっと前、夕食前とがありますが、寝る直前に入る場合はぬる目に、大分時間のあく場合は熱い湯でもかまわないといいます。

 先程の13か条では適度の運動という項目がありましたが、運動と入浴を組み合わせるのが効果的であり、運動後2時間ほどしてから、ぬる目の風呂に入り、一汗かいてから、横になるのが理想的であると、先の堀さんは述べておられます。

 就寝時に眠りにくよくよするわだかまりを除くために、ぬる目の湯にのんびり漬かり、そのとき読書をしたり、ラジオを軽く聴いてイライラを排除する、という入浴の方法がありますが、たしかに、これはくよくよ除去には効果があります。

 ぬる目の湯に、のんびり漬かる、それだけでも十分、心身は和らぎますが、もっとこれを積極的にやってみようという場合に登場するのがアロマセラピー、芳香系生薬の配合されている入浴剤を使用することです。

 ストレスがたまらないようにするには、あるいは過多になったストレスを除くには、食事と運動と睡眠が特に大事であるといわれております。ここでも睡眠が浮かび上がってくるのですが、ストレス発散と入浴については、膨大な内容になりますので、改めて特集することにいたします。

 これまでも、入浴剤の香りによって心身を爽快にする効果として、生薬入浴剤 延寿湯温泉によるストレス解消はたびたび取り上げてきました。本剤には龍脳やリョウキョウはじめ芳香性生薬を種々配合しているので、お得意の領域です。どうぞお試しください。

<参考文献>

理化学研究所脳科学総合センター:脳研究の最前線、講談社(2007年)
環境省:熱中症環境保健マニュアル 2008年6月改訂版
堀忠雄:快適睡眠のすすめ、岩波書店(2000年)