端午の節句 ショウブ 生薬入浴剤のはじまり

 緑のさわやかな季節となりました。青空に鯉のぼりが泳いでおります。鍾馗さんの勇ましいのぼりの立っているところもあります。端午の節句は子供たちの健やかな成長を祈り、今なお各地で行われている家庭での伝統行事の一つです。

 ここで欠かせないのがショウブです。

1.薬用入浴剤の始まり

ショウブが薬用入浴剤として記録に出てくるのは古く、5世紀ころかといわれております。仏教の重要な教典の一つである「金光明経」(こんこうみょうきょう)に病気を治すために薬湯につかることを奨め、入浴の方法や処方などが出てくるのです。その処方の第1番にショウブが書いてあります。ここには香薬といって香りの優れた生薬が集められ、チョウジ、ケイヒ、ジャコウほか全部で32種が並んでおります。

 

2.入浴剤におけるショウブの役割

 浴用にはショウブの特有の香りが活かされております。香りと風呂につきましては以前にご紹介いたしましたが、ショウブには精油成分としてβ―アサロン、メチルオイゲノール、オイゲノールなどが含まれています。入浴剤として外用で用いる場合には、これらの成分は香りのほかに、皮膚真菌の発育を阻止するいわゆる抗菌作用があります。

 ショウブは薬用部位としては根茎で、ショウブコンと呼んでおり、延寿湯温泉にもショウブコンが配されています。経口では芳香性健胃剤、去痰、止瀉薬、腹痛、下痢等に用いる例があります。

 民間ではショウブを入浴剤として使う場合、葉をそのまま浴槽に浮かばせる場合、或いは葉や根を刻んで布袋に入れて煮出し、その煮出し汁を熱い浴槽にいれる場合もあります。

3.端午の節句とショウブ

 鍾馗さんの幟(のぼり)は、剣を手に睨み付けるような恐い顔で、あたりを見まわしています。その姿はまさに悪魔を退治する、魔除け、邪気を払うというポーズです。もう一つ、鍾馗さんには武を尊ぶシンボルの役割があります。親は鍾馗さんに子供の力強い心身の発育を託しております。

 端午の節句におけるショウブの役割は、この鍾馗さんの役割そのものです。香気による邪気払いと、刀身に似た葉の形、さらに、ショウブは尚武(しょうぶ=武事・軍事を重んじる)に通じるという説もあるようです。

 5月5日とショウブとのかかわりは古く、中国からの伝来ではありますが、5、6世紀頃にはショウブを邪気払い、無病息災を祈るまじないとして使ったという記録があります。

 聖武天皇の天平19年(747年)には、天皇が「昔は5月5日にはショウブで頭の飾りに使う習慣があったので復活するように」といっております(続日本紀による)。

4.ショウブとアヤメ 植物分類での混乱

 どちらがアヤメで、何がショウブであるかという植物上の分類、名称は昔からややこしく、どうもすっきりしません。

 延寿湯温泉に使われているショウブコンはショウブの根茎です。このショウブはサトイモ科です。ところが、各地のショウブ園で梅雨どきに美しい花の咲かせるのは、アヤメ科のハナショウブ(花菖蒲)です。アイリスとも呼んでおります。このハナショウブは生薬にはまったく関係がなく、もっぱら鑑賞用植物で、アヤメは漢字では「菖蒲」と書きます。なお、もう一つ似ているかきツバタ(杜若)もアヤメ科です。
 ショウブとアヤメ(花菖蒲)の区別ですが、共通点は剣状の葉にあります。しかし、両者は花の形は全く異なります。ショウブの場合、小さな花が穂状に集まっており、華やかな花びらはありません。また、ショウブには強い芳香がありますので、区別は歴然です。

 ところで、もうひとつ複雑にしているのが、ショウブ仲間の名称の混乱です。

  日本ではサトイモ科のショウブ属というと、ショウブ(菖蒲)とセキショウ(石菖)の2種しかありません。植物学上では次のように学名がついておりです。

 ショウブ(菖蒲) Acorus  calamus Linn.  var  angustatus  Bess  ほか 
俗称:水菖蒲(みずしょうぶ)

 セキショウ(石菖)Acorus  gramineus  Soland.
俗称:石菖蒲(せきしょうぶ)

 しかし、民間でショウブ(菖蒲)といっいるのはセキショウ(石菖)のことであり、ショウブの本当の名前は白菖(はくしょう)です。植物分類の大家牧野富太郎先生は、ショウブに菖蒲の漢字をつけたのが誤りのもとであると、この名称の混乱を指摘しております。

 難波先生は、いわゆるショウブコンは水菖蒲であり、石菖蒲よりも太く、節が少なく芳香が強い、しかし、漢方処方では一般に石菖蒲を使うと述べております。両者の成分はあまり変わりませんし、外観も類似しているので区別は難しいようです。

 問題は医薬品として使われる生薬はどちらかということにありますが、両者には大きな差はなく、難波先生は

 水菖蒲=芳香性健胃薬とするが、経口では悪心、嘔吐あるためあまり使わない、

主として民間の浴湯用
 石菖蒲=鎮痛、鎮静、健胃、駆虫、耳鳴り、ほかと区別されています。
 延寿湯温泉に配合されているショウブコンは、ここでいう水菖蒲で、Acorus  calamus Linn.  var  angustatus  Bess  です。